青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『杉本博司 本歌取り 東下り』展(渋谷区立松濤美術館)感想

古米がまだ残っていまして…(›´ω`‹ ) 今秋の新米にたどりつけません。

 

さて、渋谷区立松濤美術館にて開催中の、『杉本博司 本歌取り 東下り』展へ行ってきましたので、ささっと感想を。

 

終幕が近いのですが~

 

杉本博司(以下ヒロシと表記します)は、私はファンという程じゃないですが、結構好きなアーティストで、彼が設計した小田原のアート施設「江之浦測候所」も行ったことがあります。

 

aoumiwatatsumi.hatenablog.com

 

今回の展覧会は、資格試験が近いからどうしようかと迷いましたが…行って良かったです。

 

杉本博司(1948~)は、和歌の伝統技法「本歌取り」を日本文化の本質的営みと捉え自身の作品制作に援用し、2022年に姫路市立美術館でこのコンセプトのもとに「本歌取り」展として作品を集結させました。
本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。(中略)

西国の姫路で始まった杉本の本歌取り展は、今回、東国である東京の地で新たな展開を迎えることから、「本歌取り 東下り」と題されました。(中略)

現代の作品が古典作品と同調と交錯を繰り返し、写真にとどまらず、書、工芸、建築、芸能をも包み込む杉本の世界とその進化の過程をご覧ください。

(渋谷区立松濤美術館公式サイト 展覧会ページより引用)

 

デジカメで撮影した冨士山

写真(春日大社の藤棚)の屏風

 

今回のヒロシも…ディ・モールトベネ!(非常に良しッ!!)

 

 

古代~近現代の諸作品を「本歌」としてヒロシなりの新しい作品を生み出していて(写真や書など)、相変わらずイケてるかっこつけつけ~な世界を堪能できます。

かなりスノッブな、スカしたところがある作家さんだと思いますが、そういうところも含めて私は好きです。

 

表装された『宙景』の前には本物のギベオン隕石

『眼科医の証人』写っているのは作家本人?

『眼科医の証人』の一部の、銀箔漆塗り桐箱

『数理模型 025 クエン曲面:負の定曲率曲面』

『In Praise of Shadow 980728』

 

本歌取り』と言っても、単純に先行作品にインスピレーションを得て、新しく作品を作る、という単純なものではないです。例えばヒロシ自身の作品や蒐集品を、古裂を用いて独自のイメージやセンスで新しい姿に仕立てたもの、「杉本表具」というものもやっているようで、そういう「作品」も沢山展示されていました。

下の写真も、その一例で、壁に『華厳滝図(作家の作品)』を表装したものを掛け、手前には『三鈷剣』を配置しています。剣と蓮台は現代の作家による作ですが、敷板は天平時代のものだそうです。

 

華厳滝図』の掛け軸、手前に『三鈷剣』

 

下の写真のように、蜀山人の書画を「杉本表具」でアレンジしたものも。

 

『十一牛図』『円相 素麵のゆでかげん』

 

自作ばかりか、古代の遺物や古美術品をそのイカしたセンスでアレンジして見せる能力に長けている作家さんだと思います。手掛ける人次第で、こんなにかっこよく見せられるのだな…と感心。

 

『石鏃(古代のやじり)』

旧石器時代の『掻器』『尖頭器』

『叫ぶ女(縄文時代土偶)』

『古作面 児屋根命』

 

児屋根命=天児屋命藤原氏の祖神)かな?良く知りませんが、ヒロシって、春日大社といい、藤原氏に縁が深いのでしょうかね…

 

『青銅製猫の棺』古代エジプトの遺物

 

写真の祖、タルボットのネガを元にヒロシがポジを作成した、『フォトジェニック・ドローイング』なる作品も!

 

『フォトジェニック・ドローイング 015』より

 

大本教出口なおさんの『お筆先』まであります!

 

出口なお作『お筆先』、を表装!

 

古代の「管玉(翡翠/古代のアクセサリー)」を使った『厘細録 ブロークンミリメーター』も良かったなあ。これ、現代の真鍮管を使ったアート作品(うろ覚え)を「本歌」としてヒロシが「作った」作品なのですよ。

 

『厘細録 ブロークンミリメーター』

 

つまり、『本歌』となる作品より遥か過去の遺物をアレンジした「本歌取り」作品です。ヒロシのこういうところ、しびれますわぁ~(笑)

 

鎌倉時代の舎利容器をアレンジして、ヒロシの『海景』(写真作品)を嵌め込んだ『時間の矢』が一番好きだったかもしれません。

 

『時間の矢』丸い部分は、ヒロシの『海景』が!

 

『瀉嘆(吐くほどの嘆き、の意味)』の書は、この松濤美術館の建物も手掛けた建築家、 白井晟一さん作。私の知人も白井さんの書を所蔵しているけれど、この人の書は中々良いなあと思います。

 

『瀉嘆』の書は 白井晟一さん作

 

通常、企画展示中は、美術館の吹き抜け部分の上部は、塞がれるそうですが、今回の展覧会では、ヒロシの意向でその処置がなされていないそうです。

 

松濤美術館吹き抜け

 

書…と言えば、本展覧会では、ヒロシの書もいくつか出品されていました。「老後の楽しみに(*´ω`*)」と書も手掛けるようになっていますが、まあまあだったかな?(ヒロシは写真は凄いけれど、書は元々門外漢ですから…)

 

『月』『水』の書

会場の様子

 

なお、大河ドラマ『青天を衝け』の題字については…うわなにをするくぁwせdrtfgyふじこlp

 

NHK公式サイトより引用

 

自作をわざと野外に置いて、日光や雨風にさらした『Time Exposed』シリーズもイケてました。骨董の陶器をワザと古びた色にしようとするみたいで、そういうとこ、好きですわぁ…(以下、『Time Exposed』シリーズ個別のタイトルはハッキリしないので「その1~」と掲載)

 

『Time Exposed』その1

『Time Exposed』その2

『Time Exposed』その3

 

U2「No Line on the Horizon」アルバムジャケット表装』という作品も出品されていました。これは、U2のアルバム『No Line on the Horizon』のジャケット写真にヒロシの『海景』シリーズの1枚『Boden Sea, Uttwil』が使われていることから…でしょうが…

 

U2のアルバムジャケットの表装~

 

No Line On The Horizon

No Line On The Horizon

  • アーティスト:U2
  • Universal
Amazon

 

ああ…ヒロシのこういうところは人によっては好き嫌いが別れるかもなぁ…と思いました。権威主義的というか、商売人というか。

「世界的なロックバンド、U2がアルバムジャケットに使ってくれた作品だよ~ん(・`ω´・)」ってアピールする感じで。まあ、いいんですけどね。

 

…と言う訳で、全体的にとてもとてもクオリティが高い、見ごたえのある展示でした。

ただし『時間の間(はざま)』、テメーはダメだ

 

『時間の間(はざま)』両脇の時計は「鏡像」

 

本展覧会の最初に展示されている作品『時間の間(はざま)』は、シャガールが手掛けた、パリのオペラ・ガルニエ宮の天井画と、ニューヨークのリンカーン・センターのオペラハウスの壁画を「本歌」として、古い時計の文字盤に「シャガール風に」絵をつけた作品です。時計の針が通常とは逆に動く(時計を嵌め込んだ箱の内側に鏡が張ってあるのですが、鏡像では、普通の時計回りに針が動いて見える)作りとなっています。

 

『時間の間(はざま)』拡大写真

 

例によって、作品の「箱」部分は由緒ある古い厨子を使用していたり、勿体ぶっているのですが、時計の文字盤の描画が絶望的にダセェ!(※あくまで個人の見解です)

 

私は、ヒロシをアーティストとして、その美意識の高さ、仕事ぶり、古美術への造詣の深さなどを大変優れたものと感じ、尊敬しております。それが何で、こんなダッセェ仕事を見せてしまうのか…この作品がなければ、今回の展覧会は完璧だったかもな、と思いました。

 

( ゚д゚)ハッ! これは、あえて完璧を求めないヒロシの「侘び寂び」の美意識によるものなのかもしれない?とインスピレーションが…私もまだまだだということでしょうか…

 

展覧会は、今月11月12日(日)までです。あとちょっと!

 

この『叫ぶ女』、好きです

 

それでは、また!