青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『プルミエ・ミュゲ』水木杏子原作 英洋子作画 感想

1月からひいひい言っていた年度の変わり目の忙しさも、後ちょっとで一段落する…かもしれません。

 

さて、水木杏子先生(『キャンディ・キャンディ』の原作者!)原作の少女漫画『プルミエ・ミュゲ』を一気読みしたので、感想を書きます。斜め上過ぎる話でした。

 

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コミックで全4巻

 

 

評価:★★★★☆(5つ★満点))

 

「スキマ」というサイトで全館無料で公開されていたのでつい…

 

www.sukima.me

 

あらすじ

花々の咲き乱れる、フランスのとある小さな村。主人公の少女、シェビィ(シェブル・クレルモン)はハンドボールに夢中(チームのキャプテンのレイモン(♂)にも夢中)な16歳。天才調香師(香水をはじめとする”香り”の製品を調合するスペシャリスト)のギョーム・クレルモンの娘ながら、花の香りには無頓着。母がいない生い立ちは訳アリですが、父や祖母との家庭で、のびのびと育っています。

 

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ヒロインのパパは香水作りの天才

 

アクティブに見えて、意中の人のレイモンにはガンガン行けないシェビィ。「私の気持ちに気付いてくれないかしら」と意外とモジモジしたところがあります。

 

ある時、幼馴染のポール(シェビィに片想い中)から、町で彼女そっくりな男の子の存在を聞いたシェビィは、以前からの疑念を元に、「母は生きていて、自分には片割れの双子のきょうだいがいる」と確信を持ちます。

そんな中、あることがきっかけで、その瓜二つの容貌の少年、フォン(フォイユ・デュポール)に出会います。年も同じ、でも誕生日は一致しないし、良く見れば髪の色も微妙に違います。そして、彼の父は「海で死んだ」、と…

しかし、二人の名前は”シェブルフォイユ”(スイカズラ)からとられたと確信したシェビィは、やっぱり自分達は生き別れの双子だ!と確信します。フォンが見せてくれた亡き父の写真は、若い頃の父そのものでした!

「何故私たちのパパとママは別れたの?」そうだ、二人を改めてくっつけましょう!と一人はた迷惑な目標を掲げ、熱くなるシェビィでしたが…(フォンは冷めています)

 

感想

いや、(色んな意味で)凄い話でした。

 

シェビィの住む村、フォンのいる町を舞台に、生き別れの双子(いかにも昭和の少女漫画好みのシチュエーション)の再会をめぐるすったもんだを中心に、二人それぞれの恋模様が描かれるとばかり思っていましたが、その舞台が想定外に大きく動くスケールの大きい話でした。

不倫…犯罪…家出…親の再婚話…男女の行き違いに、深刻な負傷と、ぶち込まれた要素もなかなか想定外。

 

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二人の名前はスイカズラからとられた

 

走っている列車に飛び乗るのは(いくらカーブで減速しているからって)ヤバすぎです。この時代、良くこんな描写が許可されたと思います。

 

某キャラの転落話も、オトナすぎました。シビア!シェビィとフォンの「親たち」のいきさつも、え?それは当時の少女漫画ではいいのこんな描写?とハラハラしました。

 

フォンにぞっこんな少女、マルヌがもう本当にキツイ性格の子で、流石、水木先生、イライザを産み出した方だけある!(笑)

 

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バラの香り、大好きです

 

シェビィの恋バナは、当初想っていたイケメンのレイモンが相手と思わせて→いつもそばにいた幼馴染のポールの良さに気付いてそっちとくっつく…程度の話かと思っていましたが、別の人物も入り交じり、ややこしくなります。その上、まさかシェビィとフォンとが「男女として意識しあう」成り行きとなるとは。

 

「でも二人は双子(きょうだい)」。愛し合うのはタブー。

 

そしてタブーとなる要素が壁となればそれだけ、恋愛ものは狂おしく燃え上がります。何かというと、「私たちは双子…」とウジウジするのもこの手の話のお約束。

 

それをあんなウルトラ強引な設定で解決するとは。実際にああいう事例は無い訳じゃないようですが、いくらなんでもご都合主義的。どれくらい強引かというと、諸星大二郎先生の『暗黒神話』くらい強引。水木先生としては、ミスリードを誘うストーリー設定のつもりだったでしょうが、読者の中でこの展開を予測できる人はまずいないでしょう。

もう、ポカーンとして結末は「良かったねー(棒)」でした。

 

それに、実質的に彼ら二人は●●と言っていいので、「私たち●●●よ!」と安心し合うのは違うと思います。

 

まあ神(作者)がいいと言っているので、読者としては文句はつけられないのですが。

タイトルの『プルミエ・ミュゲ』とは、フランス語で「初咲きのスズラン」という意味だそうです。

 

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スズランは毒があるんですよ

 

それでは、また!