青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『うたえ! エーリンナ』佐藤 二葉 著 感想

新年度が始まりましたね。やっと落ち着いてきた…(体調も回復してきた…涙)


さて、佐藤 二葉さんの古代ギリシャ百合コミック『うたえ! エーリンナ』の感想です。

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この表紙絵が泣かせる

 

 


※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★★(5つ★満点))


【目次】

 

概要


古代ギリシャの女性の詩人の一人であり、長編詩『糸巻棒』の作者として今も知られるエーリンナ。彼女がレスボス島の偉大な女性詩人サッポーと同時代人だった…という説(現在はヘレニズム時代初期の人だという説が有力)を種子として、著者が(古代ギリシャへの豊かな知識と深い洞察を元に)創造の翼を広げて描いたのが本作です。

 

はじめは、ほんわかした女学校の百合な雰囲気でしたが、プロアマ問わず、全ての"表現したい人達"とそれを支える周囲の人達への応援歌となっていった感じがします。

 

著者について


著者の佐藤二葉さんは、俳優・演出家・リュラー奏者に作家と大変マルチな才能をお持ちの方で、本作で更に漫画家の肩書が加わったようです。ICU出身で語学も堪能なのでしょうね。

本作については出版時、「古代ギリシャの百合漫画が出た」とネットで話題となったのは知ってはいました。ですが、作者様を意識したのは演奏者として、「イリアス」や「アンティゴネ―」を古代ギリシャ語で詠唱されている動画を見つけた時です。これが美しくて…

 

二葉さんは、商業漫画の出版は、これが初めてだということですが、絵も内容もとてもこなれていて、とてもそうとは思えない。著者のpixivやnoteもがっつり拝見させていただきました。

 

あらすじ


女性が自由に生きられる時代では無かった、紀元前6世紀の古代ギリシャ、レスボス島。大詩人サッポーが開いた「女学校」には、嫁入り前の少女達がサッポーに預けられて詩や歌や踊りを学んでいます。

 

皆、花嫁修業として来ている中で、「詩人になりたい」と願うちょっと変わった女の子、エーリンナが親友となるバウキス達仲間達と過ごすかけがえのない日々が綴られます。

 

感想

表現することの"呪い"と"祝福"


凄く良かったです。ネットで他の方の感想を見ていると、ヒロインエーリンナと親友のバウキスの友愛(百合?)が尊いという意見が多かったのですが、自分はむしろ、表現者として生まれついてしまった者がまとう"呪い"と"祝福"、そして"祈り"」を描き切っているところにうたれました。

以下、著者の本作出版によせて、の文もとても良かったです。深く頷かされました。

futaba-amethyst.blogspot.com

 

個人的なものから普遍性へ


著者が時代も文化も人種も、遥かにかけ離れた少女に自分の憤慨や悲しみや喜びを重ねて寄り添った時、エーリンナの生を"生きた"のでしょう。

それで作品に命が宿り、それを読む私達読者の多くが、本作を「自分の話」として読むことができるのだと思います。


ちょっと違うけど、ジブリの映画『かぐや姫の物語』(あれは男性の高畑勲監督の手に寄るものですが)を見た現代の女性達が、自分達の感じていた生きづらさを作中のヒロインの中に見つけて共感したことを思い出します。

 

本作のキャラクターの関係性や、物語の展開は、奇をてらうことなく王道です。
ですが、作者様が自らの痛みやもがき、こう生きるしかないという"業"のようなもの―極めてパーソナルなもの―を突き詰めて昇華した結果、王道で、普遍的なものに通じた名作となったのかなあと思いました。

 

「ペンは剣よりも強し」

 

エーリンナの詩の力のお蔭で、ほんの刹那の彼女たちの"スコレー"("自由時間"の意。"スクール"の語源)はかけがえのない時間として千年も二千年もの時を超えても残りました。

 

「ペンは剣よりも強し」とは、こういうことでしょうか。そう言えば、英雄達が死に絶えても、彼等の国々が遥か過去となっても、そのいさおしが詩(うた)によって今でも顕現されるのは「ことば」ならではの強みです。詩人の優れた詩(うた)は、自分自身だけではなく、歌われた人達の名も永遠にする。皆が死に絶えた後でも、「言葉」がある限り、命を保つ。


何て素晴らしい存在なのかと思いました。

 

コミックの表紙絵が、竪琴を持つエーリンナと、"糸巻棒"を持つバウキスというのも、その後の彼女達を考えると泣かせます。

 

ちょっと引っかかった

ちょっと引っかかったのは、エーリンナやバウキスが、所詮召使(というか奴隷)を使っている階層の人達だということ。このような女学校に行けること自体、詩人になるとか結婚しないとか言っていること自体、奴隷に生まれついていたらありえないよなー、恵まれた立場の人の発現だよなと思っていました。

 

以下名言

 

エーリンナ
「(英雄叙事詩が謡われているのを聞いて)まるで神々や英雄たちが私に直接語りかけてくるようで…」

「(私は)この世界で生きるのに向いてないみたい」

「素晴らしい詩は幸せな時間を閉じ込めておける」

「千年も二千年も私たちの楽しい時間が残るように」

「糸をつむぐ指のように ことばを糸にして 神様の声を―イメージを織り上げて 物語を伝えよう」

 

サッポー
「人間が素晴らしい歌を歌うということは その人を通じて神が歌っているということ」

「(独唱)でも歌は一人じゃ音楽にならないわ 世界と調和して歌うのよ」

 

アンドロメダ
「調和するのにみんなと同じことをする必要はない」

 

うちのミルテ

 

『花冠』でミルテ(ギンバイカ)の冠が描かれていたのに胸キュン♪うちのミルテはまだ冠作る程ではないですが(作るんかい?)。

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これからが楽しみです