作家の山本文緒さんの早すぎるご逝去に、ショックを受けています。ドラマ『ブルーもしくはブルー』のED『元気をだして』が頭の中で流れていますよ。
「人生はあなたが 思うほど悪くない~♪」…心よりご冥福をお祈りいたします。
さて、2人で共作されていた推理作家、岡嶋 二人がこの名義で発表した最後の作品『クラインの壺』(1989年刊行)を読みましたので、簡単に感想(ネタバレなし)を述べます。
評価:★★★★★(5つ★満点))
あらすじ
ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は……。現実が歪み虚構が交錯する恐怖!
(Amazon『クラインの壺 (新潮文庫)』紹介ページより引用)
感想
平日のある夜、(毎日続けている)試験勉強を放り出して過集中モードで何時間もネットサーフィンしまくり、就寝には遅い時間に興奮状態で、積読だったこの本を手に取りました(発達障害あるある)。
結果…徹夜じゃないですが、470ページ近く一気読みでした(翌日は在宅勤務で良かった…)。リーダビリティの高い、疾走感溢れる文体にのせられました。
ミステリの傑作と聞いて買い置きしていたのですが、読んでびっくり。これ、SFですよ。
いや、ミステリとしても優れた作品なのですが、結末を読んだら、ミステリの条件を満たしているのか分からなくなりました。本格的なミステリ好きの方にとっては、点が辛くなるのでは?と気になります。
SFだと思ったのは、ガジェットだけの問題ではなく、過去接したSF作品のような、自らの実存を問うような哲学的な命題が立ち上がってくるからです。あまり書くとネタバレになるので言えませんが、自分が寄って立つ足場が崩壊していくような感覚を、主人公と共に味わいました。
七美が指摘した、作中のゲームの"問題点"を考えると、主人公は未だ"壺の中"にいるのかも、という気持ちも捨てきれません。これは酷い小説です(※褒め言葉)。タイトルの付け方も秀逸。
刊行当時の時代を考えれば、作中のゲームの技術はあまりに進み過ぎていて、嘘くさく感じる位です(2021年時点でも技術的に追いついていない)。でも、今だとこの小説に描かれた内容は「絵空事」と笑い飛ばせるものではなくなっています。ヴァーチャルリアリティという主題で30年以上マスターピースであり続けてきた恐ろしい作品です。
ただ、私は携帯もネットもない時代を経験していますから、当時の風俗描写にもすんなり入っていけましたが、若い世代の人達に通用するのだろうかと若干不安があります。
しか~し、どんでん返しに次ぐどんでん返しの末「ああ、ここが着地点なんだな」→「まだページ数が残っている…うわうわっ‼」という持って行かれ方。作者の掌の上で翻弄されっぱなしでした。
さあ、また試験勉強の日々に戻るためブログは放置となります。
それでは、また!