全国200万人の宦官ファンの皆さん、こんにちは!
(※数字は適当です)
この弱小ブログへどれだけの宦官好きさんが来ておられるか不明ですが(´∀`;)好き勝手絶頂で行かせていただきます。
今月末、星野 之宣先生の『海帝』8巻が発売!と知り、思わず積んでいた7巻を読んでいます。これは、中国は明代の永楽帝の命を受けて、計7度の大航海の指揮をとった伝説的な存在である宦官、鄭和が主人公の歴史ロマンです。
そして、来月は、青木 朋先生が北宋の時代の中国を描く『天上恋歌』3巻発売!ということで、私が今まで読んだ宦官(主に中華)を扱った漫画・小説をつらつらとご紹介します。『キングダム』や『蒼天航路』は取りあえず抜きで。
【目次】
宦官について
宦官については、以下のリンクをどうぞ。
宦官とは本当に邪悪な存在か
こちらのページのように、宦官は権力の中枢に侍り、暴虐を尽くす、国を傾けるマイナスなイメージが少なくありません。
歴史書に残されるような大物は、どうしても権力の中枢に近く皇帝(政治)に影響を及ぼす存在なので、「悪い」印象が強くなるでしょう。性器を切除された(この時点で当時では一人前の人間(男性)ではなくなっている)異形の存在であるということで、まともに見られなかったということもあります。
が、沢山いた宦官たちの大半は皇帝一家に直接御目通りも敵わなかったようです。そして、人間に色々な人がいるように、実際は宦官でも色々な人―極悪人や凄くいい人、狡い人、清廉な人、素朴な人―がいたのではないかと思います。
士大夫の価値観
中国には、士大夫(したいふ)という官僚・知識人階級がいました。
士大夫とは、wikipediaによれば「中国の北宋以降で、科挙官僚・地主・文人の三者を兼ね備えた者」と定義されていますが、実際はもっと古い時代からそのような人達は存在していました。
『史記』を記した司馬遷も、宮刑(性器を切除されて宦官にされる)前は、士大夫にあたる階級だったと言って良いでしょう。今に伝わる中華の歴史書を記したのは、この士大夫階級の歴史家達(皆男性)です。
祖先崇拝を重視する儒教の価値観を持った士大夫達からは、一人前の人間(男性)ではなくなり、子孫を残せない宦官は、それ自体が不孝、許しがたい存在です。そこまでして生きようとするなんて恥知らずでしかない。宦官は、宮廷においては結局、皇帝一族に仕える奴隷なのですよ。後代では、重用されて、宮廷の要職につくことも多くなってきますが、それが士大夫から見て面白い訳がない。だから、従来の史書に記された宦官についての記録は、その士大夫からのフィルターを通して書かれていると考えるべきだと思います。
宦官が出てくる作品
『天空の玉座』青木 朋 著
そんな宦官のイメージの流布を覆そうと描かれたのが、青木朋先生の少女漫画、『天空の玉座』でした。
この話は、中華ものの傑作で、大変お勧めです。中国の明の時代をモデルにしている架空の王朝を舞台にした、貴種流離譚の一種であり、中国歴代王朝の事件や様々な民族、ファッション等の文化のエッセンスが盛り込まれて、本当に面白い。
ヒロインの珊瑚が元気いっぱいな主人公キャラで、綿密に描き込まれた衣装やアクセサリー、建築、アロマ、食、行事等を堪能出来てうっとりしますが、宮中という権力の中枢にいるので、容赦なく人が死にます。それもかなりの主要人物達が。
紫禁城と美しい宦官を描きたいというご自分の萌えが執筆のきっかけだそうですが(笑)、ヒロインの兄である冷徹で苛烈な美貌の宦官、蓬莱(祥君)を始めとして、様々なルーツ・過去を持つ宦官達が生き生きと描かれます。
特に蓬莱の造形は、筆者の思い入れがあるせいか、大変悲劇的で切ないものがあります(本人悪いことも沢山していますが)。彼は、元々宮中で大きな勢力を持っていた姫(き)一族の御曹司で、士大夫として育てられていました。それなのに育った価値観では卑しい、恥ずべき存在である宦官にされてしまった、その上あんなことになって…と非常に屈折したキャラクターとなっています。
この漫画、とても充実した内容と容赦ない展開で読み応えあったのですが、残念なのは、打ち切りっぽくて最後が駆け足なところ(泣)。『天上恋歌』は頑張って、青木先生が描かれたいところまで続けて欲しいです!
『天は赤い河のほとり』篠原 千絵 著
篠原千絵先生と言えば、私には『闇のパープル・アイ』なのですが、これは古代ヒッタイトへ現代人の日本人の女の子がタイムスリップして…という少女漫画です。『王家の紋章』のパクリ?と言われることもあるけれど、こちらはちゃんと完結したからずうぅぅぅっと偉いと思います。
実は、一部しか読んでいません(汗)
本作を取り上げたのは、ヒロイン達の大敵・ナキア皇太后に仕えるウルヒ・シャルマという宦官が出てくるから。金髪碧眼の美形宦官です。この話、ウルヒが「宦官にされる」シーンまでご丁寧にあるんですよ!『天空の玉座』といい、少女漫画って…(;´Д`)
『輝夜姫』清水 玲子 著
非常に精緻で美しい絵と、冷徹無比なストーリー展開で知られる清水先生の作品です。(色々と文句はありますが;)
これは、宦官ではないのですが、「高力士」というキャラクターがでてきます。中国の李財閥の後継者、李玉鈴という超お嬢様(高慢な絶世の美女)のボディ・ガードである髭の濃いむくつけき巨漢なのですが、今思うとかなりおかしな設定(笑)
「高力士」と言えば、唐の玄宗皇帝の腹心で、楊貴妃を縊り殺したあの有名な宦官からとった名前でしょう。が、こんな命名はないのでは?髭が生えているのに。昔の中国では、男は髭を生やしているのが当たり前で、(宦官という文化があったため)正常な男の証として、権威を示すためにそうしていたという説があります。それを考えるとこのキャラクターは何なの?と思います。
この話、李財閥の設定とかもツッコミどころありまくりで、中国共産党が知ったらどうなるんだろうと思います(笑) 作画とか、素晴らしいところもある作品ですけどね…
『SARU』五十嵐 大介 著
神絵師であり、摩訶不思議で魅力的なストーリーを紡がれる漫画家、五十嵐大介先生の上下巻の漫画、『SARU』は凄い作品です。あれだけ大きく広げた風呂敷を、たった2巻できちんと畳んでしまう。
これにも、ちらりとですが、宦官が出てきます。中国明代の、あの悪名高い魏 忠賢ですよ!秘密警察の東廠の長官となり、民衆に自分を「九千歳」と讃えさせた(「万歳」は皇帝相手にのみ使うものなので、千歳減らして)アイツです。著者が忠賢に「イエズス会」とか言わせているのがまたたまりません(本作はイエズス会も絡む話なのです)。
『双子幻綺行 洛陽城推理譚』森福 都 著
これはミステリ短編集(小説)です。
中国史上唯一の女帝となった武則天に仕える若き宦官と女官の美貌の双子が、都で起こる怪事件を時に推理、時に捜査して解決したりそうでなかったりする連作短編集で、中々面白いです。
この武則天という人物も、一般の士大夫の価値観からしたら非常に許しがたい存在(女が我が子も手にかけて、王朝を簒奪して皇帝に登りつめる!!とか)だったようで、以前はマイナスな評価ばかりだったようです。
現在は、政治的手腕等再評価が進んでいるようです。かな~り悪いことも一杯していたようですが、同じようなことは男の権力者だっていくらでもしていたでしょうし。
『双子幻綺行』の話に戻りますが、最後まで読むと、史実の人物を色々と調べたくなりますよ♪著者の手腕に脱帽です。
『安徳天皇漂海記』及び『廃帝綺譚』宇月原 晴明 著
2006年に第十九回山本周五郎賞を受賞した宇月原 晴明先生の傑作伝奇時代小説、『安徳天皇漂海記』はどことなく、澁澤龍彦の『高丘親王航海記』を思わせる作品です。
源実朝とか、マルコ・ポーロとか出てきて、凄く面白い。この小説の第2部にて、南栄最後の幼年皇帝、趙昺(祥興帝)に仕える武闘派宦官が出てきます。今本が手元にないので名前は忘れましたが、当然、こういう戦場にて皇帝に付き従う宦官もいたでしょうね。
この作品が、私にとって「戦う宦官」に出会った最初かと思います。しかし、この小説、本当に切なくて泣けるのです。でも、それは心洗われる涙。
同じ宇月原先生の『廃帝綺譚』は、『安徳天皇漂海記』からのスピンオフ的な、同一世界での連作小説集です。
4つの物語でそれぞれ「廃帝」が描かれますが、2番目の『南海彷徨』にて、明の永楽帝に仕える鄭和が出てきます!これも武闘派宦官。(この話での「永楽帝と仲が良い鄭和」のイメージが強くて、星野先生の『海帝』には文句を言いたくなってしまうのですよね(;´∀`))
続く3作目『禁城落陽』は明朝の最後の皇帝・崇禎帝が主人公ですが、その皇帝に、最後まで仕えて運命を共にする王承恩という宦官が出てきます(実在の人物)。ね?宦官でも色々な人がいたのです。
本作は、宇月原先生の腐男子ぶりが相変わらず。か弱い少年に萌えながら書いているなあと思いつつ、読めました。
再び、星野 之宣先生の『海帝』について
で、『海帝』7巻をざっと読みました。
NHKの『浦沢直樹の漫勉neo』でその執筆風景が紹介されていたまさにその部分の掲載内容でしたから、その意味でも感慨深いです。番組放映時は、海や山の風景や、人物(色んな角度からの!)を、あのリアルな筆致で資料も無しに、どんどん描いていかれる様子に驚嘆して視聴していましたが、本当に素晴らしい絵師様です。
しかし…この巻読んでいてまず思ったのは、「みんな鄭和様のこと好き過ぎ!」という点です(笑)
もう、鄭和艦隊は、「鄭和様親衛隊」というか、「鄭和様を見守り隊」と化しています。人外にも鄭和、モテているし。大鮫魚(だいこうぎょ=サメ)も鄭和のストーカー(笑)
永遠の敵の筈だった永楽帝も、鄭和相手だとなんだかかわいくなっちゃっているしwww みんなおかしーよ!という気持ちです。
『海帝』については、一度これまでの巻をまとめてレビューしたいと思っていましたが、どうしましょう…
それではまた!