青海のブログ

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『アンナ・コムネナ』1巻 佐藤二葉 著 感想

PC買い替えを検討中です。今使っているものは購入して8年半以上経ちました…(((((((( ;゚Д゚))))))))

 

さて、佐藤二葉先生のビザンツ帝国漫画(!)アンナ・コムネナ』1巻が発売されたので、その感想です。

 

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やたら「緋色の生まれ」をアピールするヒロイン

 

 

【目次】

 

概要

11世紀。東ローマ帝国ビザンツ帝国)・コムネノス王朝の初代皇帝アレクシオス1世コムネノスの皇女であり、中世ヨーロッパ唯一の女性歴史家として名を遺したアンナ・コムネナの少女時代を描く歴史漫画です。

 

あらすじ

物語は、ビザンツ皇女アンナ・コムネナが11歳の時に婚約者コンスタンティノス・ドゥーカスに先立たれたところから始まります。皇位継承者である弟ヨハネス(後の皇帝ヨハネス2世コムネノス。通称“カロヨハネス”=「善良なるヨハネス」と讃えられた東ローマ皇帝の中でも屈指の名君」)の存在ゆえに、皇帝として即位する夢がかなわず、「弟を廃して皇帝になる!」野心を隠そうとしません。そんなアンナは12歳の時、16歳のニケフォロス・ブリュエンニオスと政略結婚することになりますが…

 

感想

言いたいことは、twitterでツイートしましたが、もうちょっと整理。

 

画面も内容も充実

なんだかんだで面白く読みました。前頁フルカラーで、充実した画面描写が綺麗。

読んでいくうちに主人公を取り巻く権謀術策渦巻く宮廷の人間関係が見えてきて、歴史物として読み応えのある漫画でした。著者の深い学識や調査の裏付けがそこここに感じられます。(巻末の「主要参考文献」が凄い!)

 

ヒロインが好きになれない

ただ…ヒロインのアンナはあまり好きになれませんでした(苦笑)。

皇女で学識豊かである意味頭は良いのでしょう。超ファザコンで、我こそが帝国を率いるのにふさわしい、夫に(だけでなく誰にでも)頭を下げるなんてありえない!!という我の強さに、読みはじめはげんなりしていたくらいですヘ(-′д`-)ゝヤレヤレ..。自分が気に入らない意見を聞くとすぐわめきちらすし。

 

まあ、まだ12歳前後だし、話が進むにつれて人間味を感じられるようになったのですが。

 

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作中で描かれていた花は何だろう?

 

私は史実のアンナ・コムネナの業績や為人には無知ですし、彼女の著書である『アレクシアス』も読んだ事はありません。(今のところ)好きになれないのはあくまで佐藤二葉先生が描かれたアンナというキャラクターです。好きになれたら良かったのに…

 

作中のアンナと弟のヨハネスがどちらも我が強くてお互い譲らずいがみ合う(似た者姉弟…)姿に、当初は戸惑いました。後の名君ヨハネスも、最初からできた人間ではなかったということかもしれません。が!それにしてもここまで嫌なガキんちょにしなくても良かったのでは?

 

汝自身を知れ

しかしヒロイン、「お父様に似て平和を愛するアンナ」ってどの口が言うか(笑)、です。一番身近な家族と融和もできないのに。

 

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アポロンの神託所があったデルポイ

 

『婚礼の夜』に、歩みよってくれた夫に対して

この緋色の生まれ(ポルフュロゲネトス)*のアンナは皇帝となる者

帝国のみならず世界の平和を実現する人間よ!

身のほど知らずの大見えを切るのですが、それに対するブリュエンニオスの返しが人格者過ぎです。人間の器が違います。

 

…私は人間が小さいので、こんな「人に頭を下げる=負ける」程度の認識しか持っていない小娘を可愛いなんて思えません。

 

緋色の生まれ(ポルフュロゲネトス)とは

当時のビザンツ帝国で、皇后のための"緋の産室"で生まれた長子である自分のことを、アンナ・コムネナはやたら誇りに思って何かアピールします。

それが何?皇女に生まれたから何なの?と思いますけど。

「古典語もできるし修辞学もすきだしホメーロスも覚えてるし」と自ら言うところも、だから何?人として敬意を払うべきはそんなことではなく、折角の学問が泣くよ…とうんざりしてしまいます。

 

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作中の修道院に近い?写真を

 

学問や古典に通じていることの本当に大切な意味は、それによって、自分で考える力を養うこと。洞察力や自省、自制心、想像力を育てることではないでしょうか。学ぶことへの意欲、喜びが描かれている分、残念だなあ…と思います。

ただ、この部分は、今後彼女が成長するにつれて変わっていくかもしれない…と少し期待しております。

 

再び:汝自身を知れ

1979年にノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは「世界平和のために、私たちは何をするべきでしょうか?」という質問にこう答えたそうです。

 

「家に帰り、家族を大切にしてあげてください。」

 

ねえ、アンナ・コムネナ、聞いてる?

 

私が本書のアンナが好きになれないのは、家族といがみあっているから…ではありません。家族と憎みあっても良いし、"いい人"になんかならなくても良い。

 

自分がそんな身近な場所で平和を実現できていないのに、世界の平和なんて大きなことを掲げる無自覚さに嫌悪を感じるだけです。自らを省みない人は尊敬できません。

 

そういえば、マーク・トウェインの小説『ハックルベリー・フィンの冒険』で、主人公のハックが遭遇する、代々いがみあってきた2つの"家"についてのこんなエピソードがあります。

 

この人達、もう喧嘩とかいうレベルでなく、一触即発でガチで殺し合うんですよ。

 

で、この"宿怨"に囚われている人達も、日曜日には教会へ行って、説教を聞く訳です。そこで「同朋愛」(「兄弟愛」という訳も。原文ではなんという表現だろう?)とか、日々の善い行いとか、恩寵についてのお話を聞いては、今日の話は良い内容だった…と口々に言い合うんです!

 

ここ、さらっと書かれていますが、トウェインが「宗教」「社会規範」というものを痛烈に皮肉っているのを感じます。あるいは建て前ばかり取り繕う人びとの偽善ぶりを。

 

いくら理想を語ったり聞いても、日々の生活の中で"実践"が出来ていなかったら、何にもならない。そういうことなのだと思います。

 

 

具体的な対処法?多分ナシ(笑)

アンナに対して他にも嫌悪を感じる点は、「戦わずに平和に勝つ方法だってあるはずだわ」とやたら言うところです。莫迦な男達と違って、女のアンナは賢く平和に勝つ道を探る!私ならできるのに!と言わんばかり。

具体的にどうするの?実現するの?異なる意見の他者がいたらどう対処する?実際に武力行使を仕掛けて来た勢力がいてもそんなこと言える?とツッコミどころ多数。

 

それなら弟とも戦わず、平和に勝ってみたら?

 

それに、ドンパチしなくても、政治や外交という「武器を持たない戦争」にはどう対処するつもりでしょうか。必要あらば、時に大嫌いな相手ともにっこり笑って握手する政治力も皆無。

 

大体、本当に弟を廃したいなら、それを表に出したらだめでしょうが。

 

自己皇帝感(原文ママ

ただ、アンナ・コムネナ様の"自己皇帝感"の高さは評価します。例えるなら野村 沙知代とか(笑)

 

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コンスタンティノープルにて

 

サッチーじゃ(佐藤二葉先生描かれる)アンナ・コムネナ様とは全然違うって?少なくとも、不屈の"自己皇帝感"と、身近にいて欲しくないところは共通しますよ(私にとって)。どちらも夫には愛されていたし♪

 

作者の佐藤二葉先生について

感想でボロクソに書きましたが、私は佐藤二葉先生自体は(これでも)敬愛しております。『うたえ!エーリンナ』は電子書籍で所持しておりますし、pixivやnoteも好きで拝見しておりました。動画もうつくしい…と何度も視聴しております。しかし、本当に多才な方や…

 

aoumiwatatsumi.hatenablog.com

 


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pixivにあげられた作品で、ギリシャ神話のアリアドネミノタウロスを「姉弟」として描かれたその解釈は、非常に印象に残っています。確かに、この二人はきょうだいだったのだし、アリアドネは、惚れた男を救うためとは言え、実の弟を殺すことに加担したんだ…と思うと、神話の読後感がかなり変わってきます。

 

なんだかんだ言っても、『アンナ・コムネナ』2巻が出たら購入すると思います。

 

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ビザンツっぽい教会

 

それでは、また!