青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『古代ギリシャのリアル』藤村 シシン 著 感想

ゴールデンウイークは、読書と、掃除に費やしています。(しょぼい)ベランダガーデニングも夏に向けて準備をちょこちょこ。


さて、藤村シシンさんの著作『古代ギリシャのリアル』の感想です。

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表紙イラストは著者作画。凄い

※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★☆(5つ★満点))

 

古代ギリシャのリアル

古代ギリシャのリアル

  • 作者:藤村 シシン
  • 発売日: 2015/10/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 藤村シシンさんとは

藤村シシンさんは、高校生の頃出会った『聖闘士星矢(セイントセイヤ)』のアニメをきっかけに、古代ギリシャ研究に一生を捧げると誓われた方です。進学・進路も『星矢』基準に変更し、今ではNHKカルチャーセンター等で古代ギリシャについて講義をされたり、イベント「古代ギリシャナイト」を主催されたりされています。推し神はアポロン

twitter.com

今回のオリンピックのギリシャでの採火式では、古代ギリシャ語での同時通訳を担当されて話題となりました。まさにオタクの星古代ギリシャ研究者の鑑。

 

togetter.com

 

聖闘士星矢について

ギリシャ神話をベースとした、車田正美先生作のバトルファンジー漫画で、週刊少年ジャンプ全盛期の作品の一つです。また、これを元にしたスピンオフ作品も沢山あります。

 

聖闘士星矢 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

聖闘士星矢 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

私は、思春期にハマりました~(笑)車田先生の描かれた原作(冥王編終わりまで)と、アニメはポセイドン編まで。それ以降の、別の方が手掛けたスピンオフまでは拝見していません。

アニメはキャラクターデザインが荒木伸吾・姫野美智両氏で、実に作画が美麗でした (テレビだと、その回の作画担当によって、がっくりくる時もw)色々と、アニメオリジナルな点が(キグナスダンスとか、オリジナルキャラとか…www)受け入れがたかったりしましたが、美術や演出、横山菁児先生の音楽が良かったですね。映画『真紅の少年伝説』の『アベルのテーマ』なんて、今聞いても名作だと思います。

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

私は、双子座ですので、あのサイコパスジェミニのサガと、カノンの兄弟と一緒です。白い方のサガはあまり好きではないのですけどね。ちなみに『星矢』で一番の推しキャラは、黒いサガ(笑)

 

感想

面白かったです

読んでいて面白いなー、と思ったのは、青い空・青い海という概念が古代ギリシャではなかったということ。内陸から侵略してきた民が作った古代ギリシャ(という国家があった訳ではないのですが)では、「青」を言い表す適切な言葉が無かったとか。
最高神ゼウスが浮気性であるという神話自体は、古代ギリシャの各地域の人が、ゼウス様と自分達を何とか関連付けたくて、自分の先祖は、ゼウスの落し胤なのだという後付けエピソードを作っていったという話。

ゼウスの姉にして正妻のヘーラーは、元々先住民が崇拝していた地母神で、新しく侵攻してきた民が奉ずるゼウスと夫婦とされた、という話もなる程と思いました。

現代のギリシャ人達が、世界中の観光客が古代ギリシャばかり見て、自分達を見てくれないという、屈折した想いなど考えたことはありませんでした。

人型の神なんて…!

ギリシャ神話は元々好きですが、クトゥルフ神話を通過した身(つまみ食いですが)としては、「人間型の神なんて…」と思ってしまいます(笑)

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Wikipediaアポローン」より引用

 

古代の神と言ったらな、こうだろうが!!

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Wikipediaクトゥルフ」より引用

 

…なんて、程々にしておきます(;´・ω・)

でも、本書を読んで、元々の古代のギリシャ神話の神が人間を見る視点が、結構クトゥルフ神話の神と近いのでは?と思いました。いやいやクトゥルフの神々はもっともっと人に対して無関心でしょ、と御叱りを受けるかもしれませんが。

 

内容を絞っても良かったのでは

本書は
第1章 「古代ギリシャ」の復元、
第2章ギリシャ神話の世界
第3章 古代ギリシャ人のメンタリティ
と分けて、それぞれギリシャ地域(一貫して国が続いてきた訳では無い)の歴史、ギリシャ神話の変遷についてや神々の履歴書、古代ギリシャ人の労働観、死生観等を述べておられます。面白くはあったけど、視点が今一つブレていて、散漫な印象。

自分としては、「古代ギリシャ人のメンタリティ」に絞って、1冊執筆していただいても良かったのではないかと思います。

 

旅行記を出して欲しい

Web上でまとめられている著者の古代ギリシャ遺跡の旅行のツイート集(※ギリシャに限らない)が凄く面白かったので、このテーマで本を出して欲しいです。

togetter.com

行く先々で、「これは〇〇が見ていたのと同じ海…!」とか、神殿に関する薀蓄とか、ただの平原、海や遺跡がシシンさんの深い教養・知識で意味がある風景に一変するのがたまりません。

↓下記にご紹介したのは日本の話ですが、通じるものを感じました。

歌舞伎の連中を琵琶湖に案内したが、比良山を教えても、一向に反応を示さない。で、「近江八景の比良の暮雪ですよ」といったとたん、みな感動してふり仰いだという。自然を活かしているのは言葉なのだ。或いは歴史といってもいい。もし「近江八景」というものがなかったら、比良の高嶺に雪が降ろうと降るまいと、誰も興味を持ちはしないだろう。ということは、自然は、――少なくとも日本の自然は、私たちが考えている以上に人工的なものなのだ。

白洲正子 著 『近江山河抄』より引用

 

近江山河抄 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)
 

 

シシンさん絵が上手い

ところで、表紙のイラストが著者によるものと知ってびっくりしたのですが、シシンさん、絵がお上手ですね~(驚)ブログでも、ギリシャ神話の神々の凄く上手い絵を掲載されています。

それで、以下のドリーム漫画も拝見したのですが…

アポロンドリーム漫画:恋人はアポローン
アポロンが家にやってきた~

www.style-21.jp

 

なんだか…これ…凄い既視感…www

 

いいね!光源氏くん (FEEL COMICS swing)

いいね!光源氏くん (FEEL COMICS swing)

 

 

いや、シシンさんの方が先ですが、あまりにまんまで笑いました。

 

今後、藤村シシンさんが新たな著作を出されることを願っています。面白そう~

『一度きりの大泉の話』萩尾 望都 著 感想

先月は、7記事しか更新していませんのに、途切れずご訪問いただいていたようで、本当に有難うございます。今月以降も無理せずゆるゆるとやって行こうと思いますので、よろしくお願いいたします。


さて、萩尾 望都先生が約50年前、漫画家・竹宮惠子先生達と共同生活をしていた練馬区大泉時代について証言された『一度きりの大泉の話』の感想です。

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表紙

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本の帯

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裏表紙と帯

 

※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★★(5つ★満点))

 

一度きりの大泉の話

一度きりの大泉の話

 

 

 なお、発売時に河出書房新社からは、「大泉での日々については、今回、本書に記す内容がお答えできる全てであり、今後も本件について著者取材は一切お受けいたしませんことをご理解賜りますよう、お願い申し上げます。」と釘が刺されています。

 

感想

まず、はじめに

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少女漫画の話だし、薔薇でも

心から願うのは、「萩尾望都先生ができるだけ安らかに過ごせますように」これだけです。萩尾先生が、残された人生を、金輪際思い煩うことなく創作活動に捧げることができますように。安心できる人達に守られて、周りの思惑に悩まされることがありませんように。

 

簡単に言うと

本書は、竹宮惠子先生がご自分の漫画家人生を振り返って、萩尾望都先生への嫉妬に苦しんだ過去も込みで「懐かしい、良い思い出」とまとめた『少年の名はジルベール』に対して、萩尾先生が「大泉時代はそんな輝かしい良い思い出なんかじゃねー!!大失敗だったんだよ実態はこうだ現実はこんなものだろ超トラウマなんだよそっとしておいてくれ静かに創作させてくれ!あの時代を美化したドラマ化なんかまっぴらごめんだ、花の24年組?大泉サロン?少女漫画革命?少年愛?そんなのあんたたち"だけ"の話だろう、こちらは本当に一切関係ないから私抜きでどうぞ♪これまで通り絶対にお会いするどころか近づくつもりもないからよろしくヽ(`Д´#)ノ; 」
と宣言・周知するために書かれた本です。

 

 

葛藤や痛みも創作につながる

本書は、中々のトラウマ本で、非常に重くてため息をつくしかない読書の時間でした。
今後の生活を守るために、ギリギリのところで、やっとのことで書かれた著書ですが、これ自体大きな存在感のある見事な"作品"となっています。
50年も前のことをこれほど鮮明に思い出して書かれる萩尾先生の記憶力に驚きました。その記憶力で当時の生々しい葛藤や痛みも紙上に再現して、読者にトラウマを植え付ける筆力と言ったら。

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血のような薔薇を

あくまで、本書で語られるのは"萩尾先生の記憶する話"で客観的事実とは言えませんが…もう「花の24年組」とは「大泉サロン」とか安易に呼べないなと痛感しました。

 

私の立ち位置について

まず、自分のことを申し上げておきますと、「この世代」の少女漫画家さんでは、山岸 凉子先生・大和和紀先生・青池保子先生・大島弓子先生が最も馴染みがあります。
後、池田理代子先生。子供の頃は『ベルサイユのばら』のアニメが普通に放送されていましたから馴染みがありました。ただ、先生の作品では『オルフェウスの窓』が最愛です♪(これもドイツの音楽学校だな…)

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音楽は門外漢です

萩尾望都先生と竹宮惠子先生に関しては、竹宮作品の方が昔から親しんでいました。
姉が所持していた先生の初期短編集『遥かなり夢のかなた―SF傑作集 』をきっかけにして、『変奏曲』シリーズ、『風と木の詩』、『ファラオの墓』、『イズァローン伝説』、『天馬の血族』、『紅にほふ』…と、読んでいました。

竹宮作品では『ノルディスカ奏鳴曲(ソナタ)』が一番好き♪ 『少年の名はジルベール』も、読んでいますよ。

 

ノルディスカ奏鳴曲 (花とゆめコミックス)

ノルディスカ奏鳴曲 (花とゆめコミックス)

  • 作者:竹宮恵子
  • 発売日: 1981/02/25
  • メディア: 新書
 

 

竹宮惠子作品集 ジルベスターの星から

竹宮惠子作品集 ジルベスターの星から

 

 

そして、絵柄で、どちらが萌えるかというと、竹宮先生。萩尾望都先生は、昔の先生の描かれる絵が私には駄目でした。後年の絵の超絶な美しさは認めますが、基本萌えません。

…というように、萩尾先生の作品にはそれ程親しんでこなかったし、往年のファンの方々のように思い入れもありません。後年、少しづつ読むようになったし、『訪問者』『マージナル』や『由良の門を』(『寄生獣』のスピンオフ作品)等は、凄いと思っています。松屋銀座 他で開催されていたデビュー50周年記念「萩尾望都 ポーの一族展」にも行ってきました。

 

訪問者 (小学館文庫)

訪問者 (小学館文庫)

 

 

結局無理な話だった

前置きが大変長くなりました。
本書を読んで思ったことは、「個性の強い創作者同士が、一つ屋根の下で同居するべきではない」これに尽きます。


しかし、萩尾先生のように、当時若い女性一人が上京する場合は、それにご家族との関係からしても、この状況は避けられなかったでしょう。また、仮にこの同居が無かったとしても、萩尾先生のように自己肯定感が低くて不器用な大天才が生きていかれるうちに、後年、どこかで別の形でトラウマとなる経験があったのでは?と私は思っています。


本書の、萩尾・竹宮両先生(増山のりえ氏も交えた3者と言っていいかもしれません)の間に50年程前起こったことについては、特に何か言うつもりはありません。
20歳かそこらの小娘たちだし、「やらかしちゃったんだね、そういうこともあるよね」くらいの気持ちです。よろしくはないけれど、ありうる話です。

そうして先生が対面でその怒りを上手く表現できず、のみ込んでしまったから、竹宮・増山両氏も、まさか先生がこんなに傷ついて、引きずるとは思っても見なかったのかもしれません。先生も辛かっただろうなあ。きっとそれまで竹宮先生たちと一緒に過ごすのは楽しかったんだと思います。それが…

 

竹宮先生に対して

竹宮先生も、天才だと思っていますし、大泉での"核心部分"での竹宮・増山両氏のふるまいよりむしろ、その後の「噂」や、『少年の名はジルベール』執筆前後のことは、残念に思います。萩尾先生のところへ、竹宮先生との対談だの、大泉時代のドラマ化の話が持ち込まれているのは、竹宮先生がそれを止めないからですよね。少なくとも。実際あった肝心のことを伏せて。私にはそれがとても嫌でした。

ただ、個人的には「優れた創作者は人格者でなくてはならない」とは思わないので、残念なふるまいがあっても、作品が良ければ一読者としてはそれで良いと思います。後は、当人同士の話…

やった方は"それほど"とは思えないのでしょうか。けれども、やられた方は決して忘れなかったりする。もう性質が、決定的に合わなかったんだろうな、この二人は。

 

城章子さんがいてくれて良かった

本書を読んでいて、先生にマネージャーの城章子さんがいてくれて本当に良かったと思いました。

本書の末尾に城さんが書かれている文では、当時の増山さんのアイタタエピソードが紹介されています。ここに、大泉時代の美化や伝説化を敢然と阻止しようとする彼女の意志の力を感じました。(個人的には、確かに増山さん、残念なところはあったと思いますが、そういうこともあるよね~と思います。20歳くらいで勿論やらない人もいるけれど、これくらいあるわな~と思います)

その城さんは、元々竹宮先生のファンだったというところが運命の不思議さを思います。「噂」に対して、竹宮先生を電話で問い詰めて萩尾先生のためにしっかり怒るところが好き。竹宮・増山両氏とのいざこざからか、ストレスで眼を痛めた先生のために城さんが『日本沈没』を代わりに読んでいたら…のエピソードも好き。

 

本書で一番好きなところ

この本は、作家の創作の話も沢山書かれていて、そういう点でも面白かったです。一番好きな部分は、『トーマの心臓』執筆時のくだり。

 

トーマの心臓 (小学館文庫)

トーマの心臓 (小学館文庫)

 

執筆のために、書籍でドイツの年間降雨量や月ごとの平均気温、日の出や日没を調査し、現地の植生や樹木も種類を調べて作品に生かすところ。窓の外から見える木1本を描くのにおろそかにしないのは凄いと思いました。勿論ネットも無い時代です。

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木の種類まで普通考えて描かないのでは?天才だ

後、エーリクのセリフに萩尾先生が「出会う」美しいシーンも。

 

それでも思うこと

…とは言え、本書を読んで萩尾先生に対して思うことは、「何て執念深いのだろう」ということです。ハッキリ言ってこれぐらいのことで50年執念深く恨みを抱えていたなんて、正直ひきます。私も、20年以上抱えている恨みがありますが(時々思い出す)、そんな自分を顧みてひいてしまいますから。でも、こういう偏りが創作者として優れている所以なのかと思います。

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人としての歪さも創作の源


それから、本書を読んだ感想で、萩尾先生、漫画を止めていたかもしれない?描き続けてくれて良かった!!という意見が結構ありましたが、(amazonのレビューにもありましたけど)この先生、そんな"たま"じゃあないでしょう。両親に漫画を反対・妨害され続けながら、潰されずプロの漫画家となり、50年以上漫画界という鉄火場に現役でいるんですよ?今でもその動向に大きな反響を呼んでいる。相当"怪物"だと思います。

 

毒親なのに離れないでいる子供

両親と言えば、彼女は家族とこそ訣別すれば良かったのでは?と思います(竹宮先生からはあんなに逃げ回っていたのにね)。子供の頃、親の庇護下にいた時ならともかく、成人して経済的に自立できてからも絶縁しなかったのはなんだか切なくなります。しかし、無責任な第三者の意見ですが、繋がっていても傷つく相手と切れず、その傷ついたことをいちいち書いていたのはなんだかなあと思います。

本書にもそんなことが書かれていますよね。だから、そう萩尾先生をいつまでも"被害者"扱いはしたくないのです。

…つらつらととりとめのないことを書いてしまいました。それでは!

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歪だけど、大変面白い本でした

 

へっぽこDIY(初めての水耕栽培)

俺、ゴールデンウイークになったらホームセンターへ行くんだ(何かのフラグ)

 

さて、下の写真は先月観葉植物専門店で550円で購入したクロトン。既にダ○ソーで330円で購入したクロトンも世話していたのですが、葉の色が別系統でつい惹かれて保護。

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しばらくおちょこに入れていました

水耕栽培用に作られた苗だそうで、お店では土に植えることはできないと言われました。水栽培向けにのびた根は、土で植えた場合に出る根と違うのだそうです。土に植えるクロトンは、冬越しでは水やりを控えるのが重要だそうですが、この水栽培向けのクロトンは、冬でも水に浸けておいて問題ないとか。

 

そもそもこれは、額縁型の枠に植栽して、壁掛けにして飾るためのパーツとして販売されていました。実際、お店でもそのようにディスプレイされた例を見かけました。


www.rakuten.co.jp


そのため、スポンジと根が一体化しています(店で取らないでと言われた)。

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根がスポンジの下に集中していて窮屈な感じ

これ単体で欲しいと言ったら、おちょこのような器に水を入れて、ちょこんとのせとくと良いですよとアドバイスされました。

 

それを守って、手探りで初めての水耕栽培を開始。


家で使っていないおちょこで丁度良いサイズのものに移して、(時々液肥も入れつつ)水がなくなれば足して。「カーテン越しの日光」が良いと聞きましたが、まだ春なので、在宅で晴れた日にはせっせとベランダに出して。

購入当初より結構大きくなってきたのですが、何せ上の写真のようにスポンジ下に集まった根が窮屈そうで、可哀想になってきました。


そして、小学校でやっていたヒヤシンスの水栽培のように、もっと根を下に伸ばせる容器に移したらどうかと思うようになりました。それからネットで調べて…これ、良いんじゃないか?と思った手軽な水耕栽培を有難く真似させていただくことに。ネットはこういう時有難いです。

madamsteam.com


これは、サボテンでやられていますが、うちの水耕栽培用クロトンちゃんでもきっと大丈夫(`・ω・´)シャキーン、レッツ、トライ!


まず、容器にするジャムの空き瓶(家にあった)と、その瓶の口より少し大きいサイズの100均で購入したステンレス製のゴミ取りネットを用意。どちらも勿論、クロトン付属のスポンジよりいくらか大き目なものを選びます。

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安上がりで助かりました


針金を切る工具(ニッパー等)も必要です。これで、ゴミ取りネットの真ん中を丸く切り取ります。この穴にスポンジをはめ込んでひっかかるように、穴が大き過ぎないように見ながら。

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ちょっと大きく切り過ぎて焦った

穴の内側に嵌めるスポンジや、クロトンの根に針金の切断面が当たらないように、切った針金の端を折り込んでおきます。

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切った針金の端を折り込むことも計算して穴を空けるべし

これで準備OK!


瓶に新鮮な水を溜めて、瓶の口上部に、穴を空けたステンレスの網をセット。そこに、「すぽん」とクロトンのスポンジをはめ込みます。これで終わり♪

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はめ込んだあたりはこんな感じです

取りあえず、最初の水にはメネデールを希釈して入れました。

 

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うまく馴染んでくれたら良いのですが

調べていて判明したのですが、水耕栽培では当初私がやっていたように水をつぎ足すやり方は駄目だということです(恥)週1程度のペースで、新鮮な水に入れ替えをしてやらないといけなかったようです。…今後はそのようにいたします。今まで水をつぎ足し方式で、大丈夫だったかな?とにかく、元気でいてくれさえいれば嬉しいです。


ちなみに、下の写真は、大きい方がダ○ソーで330円で購入したクロトン。今のところ元気に生育してくれています。小さい方が今回の水栽培の550円のクロトン。

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どちらも尊い…(人´∀`).☆.。.:*・゚

どちらも大切な"うちの子"です(*´Д`*)

『合田ノブヨ 花ぬすびと展』 感想

本日は、別の展覧会へ行く予定を変更して、恵比寿のGalerie LIBRAIRIE6で閉幕間近(4/25(日)まで)の『合田ノブヨ 花ぬすびと展』へ行ってきました。

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とにかく繊細な展示でした


間に合って良かった。

librairie6.com

 

合田ノブヨさんは、画家の合田佐和子さんのご息女です。佐和子さんは唐十郎寺山修司の劇団の宣伝・舞台美術等の仕事で知られる方、という程度の知識しかありません。


ノブヨさんについては、吉本ばななさんの短編集、『体は全部知っている』の装丁の仕事で存じ上げている程度でした。

 

体は全部知っている (文春文庫)

体は全部知っている (文春文庫)

 

展覧会で作品を直に拝見するのは、多分初めてだと思います。


感想は…兎に角、恐ろしく繊細で美しい作品ばかりでした。"聖性"という言葉が浮かびます。多くの出展作品は、売約済となっていましたが、仮に購入できたとしても(価格の上でも)、とてもうちの汚部屋へ迎え入れるなんて冒涜的なことは自分で許せないレベル。

 

展示作品は、コラージュと押し花・ご自分で書かれた流麗なカリグラフィー(これが実に美しい!)等で構成された平面作品、コラージュと水晶?(樹脂?)のようなもので作られ、アクリルケースに収納されたちいさな立体作品、マッチ箱、極小のコラージュと押し花、リボン等で構成されたミニチュア作品がありました。

 

下図は、今回の展示で最も好きだった作品。

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Galerie LIBRAIRIE6のtwitterから引用

 

押し花は、作家がご自分で育てた草花を使って制作されているようです。
上記のことや、カリグラフィーのことをギャラリーのスタッフさんが、嬉しそうに教えて下さったのが印象的でした。作家さんをとても大切に想っている感じがします。


押し花を使ったカードやカタログ?も販売されていたようですが、私が来廊した時には全て完売となっていました。

 

ところで、昨晩全く別のところから、合田ノブヨさんご本人のtwitterを拝見して、ドキリとしました。

 


苦労された(今も?)ようで、声もありません。作家様の今後が安らかでありますように。

 

…で、このツイートは、丁度この本(下写真)の感想等をtwitterで追っている時にたまたま辿り着きました(私はtwitterアカウント持っていませんが)。

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今読んでいる最中

 

萩尾先生も、ご家族で大変な思いをされた方だと漏れ聞いていたので、何となくこの符合に不思議な気持ちがしました。本は、本日購入して、今読んでいます。感想は、また後日ここに載せる予定です。

 

それでは!

『コンビニ人間』村田沙耶香 著 感想

今更ながら、村田沙耶香さんの小説『コンビニ人間』の感想です。
読書会の課題本だったため読みました。

 

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さくさく読めました

※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★★(5つ★満点))

 

コンビニ人間 (文春文庫)

コンビニ人間 (文春文庫)

 

 

【目次】

 

概要


第155回(2016年)芥川賞受賞作。

あらすじ


古倉恵子は同じコンビニで18年間も働き続けるアルバイト店員。就職も、恋愛経験もない独身の36歳。彼女は普通の人と違う思考や言動で浮いてしまうため、学生時代は「黙る」ことで、また職場では同僚の口調や服装をトレースしながらなんとか乗り切ってきました。

完璧なマニュアルによって支配されている「コンビニ」でのバイトは彼女にとっては天職。そんな古倉さんの職場に、就労動機を婚活だとほざく白羽(社会不適合者のクズ男)が新人として入ってきて、すぐクビになります。

その後、彼女はこのクズ男と奇妙な同棲生活を始めるのですが…?

 

感想


面白かったです。芥川賞受賞直後に、パラ見したので、大体のあらすじは知っていました。パラ見で済ませたのは、白羽がクズ過ぎて不快だったのと、主人公の古倉さんへの周囲の「普通」の人々の干渉が息苦しかったためです。


でも、きちんと通して読めて良かった。

 

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植物が成長する季節ですね
多様性だなんて上辺だけ


私は、古倉さんが好きです。おそらく発達障害で(他人とは思えない)、サイコパスなんでしょうが、真面目だし、コンビニバイトでも自立して生きていますし、誰に迷惑をかけている訳でも無い(かけないように心掛けて生きている)。

 

そして、この人なりに感情があり、"愛"を知っているという印象を受けました。

だって、小鳥の死骸を、焼き鳥が好きなお父さんに食べさせてあげようとするんですよ。発想は斜め上ですけれど。そして家族は自分とは異なる存在と認識しつつも、「愛してくれた」ことを分かっている。

 

そんな彼女を放っておいてくれず異常扱いして「こちら側」に来るよう強いる普通の人々には静かな怒りを覚えました。"違う"存在だけど、人に"迷惑"をかけていないなら、「見て見ぬふり」くらいできないのか、と。

 

「普通」への根強い信仰


この小説、非常に宗教的な表現が多いと思いました。


マニュアルは聖書、白羽が職場のコンビニでの朝礼を「宗教みたいですね」と評する言葉にそうですよ、と心の中で応じる主人公。彼女はコンビニのチャイム音が「教会の鐘の音に聞こえる」し、「この光に満ちた箱の中の世界を信じている」。

 

そして、「普通」「世間」「常識」を信仰する人々。そこから外れる人を意識的・無意識的に排斥する静かな暴力性。ただ、数の問題なのに。

 

親が言っていました。昔は、離婚が少なくて、離婚した人がいると、「あの人離婚したんだってヒソヒソ( ゚д゚)ヤダァ(゚д゚ )ネェ」って言うのが「普通」だったって。
今は離婚がすっかり多くなり、差別するどころではなくなったのですけれど(笑)。身内でも離婚した人がいますし。「普通」とか「常識」なんて、そんな状況次第でいくらでも変わるあやふやなものだということが分かります。。

 

私が昔からうんざりしているのは、世の中の多くの人が何故当たり前のように「隣の人も、自分と同じようにものを見て、考えている」と信じてしまっているのかということです。それで、横にいる人間(私)が「人の形をしているけれど、中身は自分達と異なる何か」と気づくと異様な目つきになるんですけどね。

 

しかし、古倉さんが世間を納得させるために白羽と恋人関係を偽装するのは、ありうる話だと思いました。私の昔の知人でも、そんな例があるんですよ。疑似家族というか、実質夫婦じゃないけれど籍を入れて、たまたま行き場のない赤の他人の赤ちゃんを引き取って、表向きは「家族」の顔で過ごしているらしいです。小説では、白羽を選ぶのは駄目だろ~と思って読んでいましたが。

 

怒りを感じた点


小説で腹立たしいのは、古倉さんの妹が「お姉ちゃんは、いつになったら治るの……?」というところ。つまり、目の前の姉を認めていない。凄く失礼。妹を傷つけるようなことをしない、自立して家族に経済的な迷惑をかけないといった点をどうして評価できないのか。

しかしこの姉妹、新井素子の「ひとめあなたに…」のひたすら勉強する姉と、その妹の組み合わせを思い出しましたよ。あの話も狂っていた。

 

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

ひとめあなたに… (創元SF文庫)

 

 

それから、「嫌い」「逮捕されたらいい」と言っていた白羽と古倉さんとが付き合っている?(誤解だけど)と知った職場の仲間達が誰も「あんな男やめろ」とは言わないこと。ただ、「良く分からなくて不安の元だった人がやっと自分達の理解がある側にきた!」とはしゃいでいるだけなんですよ。彼女のことなんか本当に思いやっていない。

 

白羽のでまかせにすがりつく古倉妹も、「そういうことにしておきたい」だけ。自分の安心のために幻想にしがみついている。このシーンも妹が「まるで教会で神父さんに出会った信者みたいな顔で」と描写されています。まさに「普通」という宗教の信者。

 

"神"に仕える巫女


最後、コンビニの「音」が「声」となってヒロインの中に流れ込む(まるで天啓のように!)ところからは怒涛の展開で、読んでいて楽しかったです。素晴らしいハッピーエンドだと思いました。


"異物"として充足し、自分自身を全うしようとしている新生した主人公の姿が神々しくさえ思いました。もはや、コンビニと言う"神"に仕える巫女の風格。

 

正確な表現


作品内で、主人公が自分を"異物"と評する言い方が、非常に適切だと思いました。
私も、昔から"おかしなもの"を見るような視線を受けることはしばしばですが、もう"人"扱いではないのです。"異物"という表現が一番正確。

妹の息子を「こっちの赤ん坊のほうが、大事にしなくてはいけない赤ん坊なのだろう」と見る主人公の「ものの見方」もとても正確に描かれていると思いました。赤ん坊や幼児を無条件に愛おしむ人を見ると、異星人を見たみたいにビックリする私にとっても、共感しきり、でした。

 

一番私に近いのは


…とはいえ、作中の登場人物で一番私に近いのは、(不本意だけど)クズで愚劣な白羽だと思うんですよね…
古倉さんのように、コンビニの仕事をこなすことは、私には能力的に不可能です。多くの人があまり考えずにこなしていることが本当に出来ない人間っているんです。


白羽もおそらくそうなんでしょう。それでいてプライドが変に高い。そして意識では自分を「普通」のカテゴリにおいてしまっているのですよ。だから非常に生きづらい。

「ネット起業をする、沢山の女たちが僕に群がるだろう」と言っていたのが、

「僕を世界から隠してほしい」「ぼくは一生何もしたくない。一生、死ぬまで、誰にも干渉されずにただ息をしていたい。それだけを望んでいるんだ」

と言うにいたって、ああこれがこいつの本音なんだなと思いました。

 

大嫌いな奴だけども、ここは超共感しました(笑)「お前は私か?」と。

 

物語の結末からその後、「まともになること」を振り切った古倉さんに対して、周囲の人達はどんな反応を示すのか?と気になります。

 

…まあ、家族やミホさんたちとは距離を置いた方が良いかと思いますけど。一見とても孤独な人生を送りそうですが、本人はそれをあまり苦にしないのではと思います。コンビニという神と通じ合う今となっては(コンビニで働き続ける限り)独りではないのですから。

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異常な人間でも、花は綺麗に感じられる

 

古倉さんの前途に、幸あれ!!

執着

ブログ開始から、この記事で50記事目になります!

1月から開始して、このとおりのんびりペースですが、これからもよろしくお願いいたします!

 

さて、今の私の"推し"はうちの鉢植えの植物たちです。

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映えないうちのベランダ。手前が購入直後のエケベリア(ブルーカールズ)

 

植えつけ、植え替え、水や肥料をやり、(今の季節は)屋内の観葉植物や多肉植物たちも日中はベランダへ出したりして(テレワークはこの点良いですね)せっせと面倒を見ています。元気のない鉢は心配ですが、出来ることをしたら後は運を天に任せるしかない。

 

元気よく順調な鉢にはデレデレ。朝に夕に眺めては、「ハァ…尊い…」とつぶやいています(※危ない人)。

 

どれも大切な鉢ですが、多肉植物エケベリア属のブルーカールズという葉にフリルがついた種類の鉢は、一目ぼれで買ったので、思い入れは深いです。

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ブルーカールズの鉢


今年の3月のことです。都内の某商店街で売られているのを見かけて、(私にとってですが)その大きさ(5号くらいの鉢)も、青っぽい水色と青紫との微妙な色あいも、葉ボタンか、レタスみたいな面白い外見も、全て魅力的で、ノックアウトされてしまいました。


…しかし、この時は、その後別に遠方に寄る予定がありました。しかもその時点で既に重い荷を持っていたので、「ブルーカールズ」の名前をチェックして、「また別のところで買える…きっと」と購入を断念してしまいました。


2,200円という価格も、先月その時点での支出状況を考えて、「来月購入を検討しよう」と考える元になりました。

 

…帰宅してから後悔しましたけど。

 

結局我慢できず、地元の園芸店やホームセンターを周りましたが、取扱いはなく、ネット通販でも販売時期ではないようで、売り切れだったり。

結局、その2週間後に(休日に)都内に出る用事のついでにわざわざその某商店街のお店まで足を延ばして、(まだ売っていた!)ブルーカールズの鉢を保護しました。マジでストーカー。でも嬉しかったですよ…

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色々な色彩も形もたまらん


 

 

オンオフともに、非常に忙しい時期だったため、この後、体調を崩したのはこの寄り道のせいだと思います。が、後悔はない!2,200円の価格も、今となっては毎日癒しをもらっているので、おつりがくるくらいだと思っています。

 

私は、発達障害もあってなのか、癖のあるものに惹かれてこだわってしまうところがありまして、今回もまさにそうでした。

 

うちに迎え入れてからは、水やりもコントロールして(まだ1回しかあげていない)、日中は天気と気温を見てベランダへ出しているうちに、思ったより鉢に変化が出てきました。

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購入した時の鉢。下方向に一部枯れた葉があるのに注意

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今の鉢。一部枯れた葉を基準に、上の写真と比較すると変化が分かる

 

 

内側の新芽から、葉が伸び伸びと成長しているようで、みっしり幾重にも折り重なっていた下葉がどんどん枯れてきました。そして全体に、それぞれの葉が大きくなって伸び伸びした感じになってきました。水はやり過ぎていないので、良い意味での成長のようです。

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購入当初は脇から見ると、フリルがついた葉が幾重にもみっしり重なっていました

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今は、下の葉から枯れて、葉と葉の間がスカスカな感じ?

だから心配はしていないのですが、最初に私がハァハァしていた葉の形が失われてきました。葉の色合いも、変わってきたようです。

 

…でも好き!!(莫迦)兎に角、死なないで生きていてくれさえすれば良いです。これからは夏越し対策を考えないといけないけれど、大丈夫かな?

 

頑張ります。

『砂の女』安部 公房 著 感想

地元は本日晴れていますが、とても風が強いです。

 

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カバー装画は妻の安部真知。この夫婦のその後を思うと何とも言えない気に…

 

さて、安部 公房の代表作である小説、『砂の女』の感想です。

読書会の課題本だったため、図書館で借りて読みました。

 

 

砂の女 (新潮文庫)

砂の女 (新潮文庫)

 


※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★★(5つ★満点))

 

【目次】

 

概要


言わずと知れた、安部公房の代表作(読売文学賞受賞)。20数か国語に翻訳されています。1962年刊行、1964年勅使河原宏監督で映画化(作品は、第17回カンヌ国際映画祭審査員特別賞)。

 

あらすじ


昆虫採集が趣味で、教師の仕事を休んで新種の虫を探しに、ある貧しい漁村へやってきた"男"。(仁木順平という名前も明かされるのですが、話の語りでは主に"男"。)
新種発見に執心する男は、砂地にまだ見つかっていない新種の虫がいるだろうと見込んで、S駅から乗り込んだバスの終点の砂丘の村へたどり着きます。が、ここは非常に奇妙な集落でした。

 

"すべての家が、砂の斜面を掘り下げ、そのくぼみの中に建てたように"見える村。

それぞれの家屋が"屋根のてっぺんまで、すくなく見つもっても、二十メートルはあるだろう"。砂丘の頂上から振り返ってみると、"まるで壊れかかった蜂の巣"。

 

こんな蟻地獄の底にあるような家(集落の外側、一番海側にある)に、男は一晩の宿のつもりで泊まり、騙されて閉じ込められてしまいます。その家には夫と娘を砂によって亡くした、30代くらいの女が一人住んでいました。

 

男は貴重な男手として、砂をかき出す労働に従事させられます。塩気と湿気のある不快感ばかりの砂との闘い、村人の監視、抵抗もせずに強いられた暮らしから出ようとしない女。何度も逃亡を試みる男ですが、その都度失敗して元の木阿弥。いつかは脱出するつもりで身をひそめながら穴の底で日々をやり過ごしていましたが…

 

感想


さくさく読めました。神話的、寓意的で普遍的な広がりを持つ不思議な話でした。小説で描写される、砂丘や砂や、月や女の表現も、妙に美しく、時に淫靡で艶やかなのが印象的でした。

 

初めに、結論が書かれています。結局失踪してから7年、男は砂の部落から逃げなかったと思われます。

生存しにくい砂の環境に適応した虫を探しに行った男が、結果そんな環境に適応してしまう皮肉。人間、どんな理不尽な過酷な環境でも、適応してしまうのかとため息をついてしまいました。

 

捕らえられ、閉じ込められた中から、元の日常に戻ろうとする男のあがき。しかし、その戻りたかった日常とはそれ程のものだったのか。こうなったきっかけは、ありあまる"義務のわずらわしさと無為から、ほんのいっとき逃れるために"です。妻とも冷え切った関係だったようです。

 

"いつも、別なことを夢みながら、身を投げ入れる相も変らぬ反復"と繰り返す毎日。この穴の中のそれと何が違うのでしょう。

 

勿論、大抵の人の日常とは退屈なものですし、だからといって全て振り捨ててしまう程悪いものではありません。小説で描かれる砂丘と重なってしまった部落の暮らしは、あまりに過酷です。

 

それでも、元いた社会を俯瞰するようになって、"欠けて困るものなど、何一つありはしない"と気付く男。絶え間ない砂との闘いの繰り返し、日課となった手仕事へのささやかな充足さえ見いだしてきます。

 

そして、"希望"と名付けた溜水装置。"希望は、他人に語るものであっても、自分で夢見るものではない"という言葉が別に出てきますが、これが小説終盤に、男が溜水装置のことを村人に語りたくてしかたがない、というところに繋がって行くように見えます。

 

しかし、作品が執筆された時代、日本は高度経済成長期。監視している部落の人間達も、いつまでこんな環境にしがみついていられるのか、疑問です。今の大人達が頑張っていても、後の世代が続くかどうか。

 

女の話題が範囲が狭いけれど、自分の生活の圏内に入ると、"見ちがえるほど活気をおびて来る"とあるところも、リアリティを感じました。まあ今のように性の多様性について話される時代から見ると、「男と女」と二元化された分析は不適切な話になりかねません。作中で人間の中で異常なケースとして精神分裂症患者、放火癖、酒乱、精薄、白痴等と並んで同性愛が挙げられているのも色んな意味で今ではまずいと思います。

 

とりとめのない感想になってしまいましたが、それでは、また!