青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『羆嵐』吉村 昭 著 感想(ネタバレあり)

さて、吉村 昭 著『羆嵐』を読んだ感想です。

 

f:id:aoumiwatatsumi:20210218232520j:plain

みんなだまされちゃダメだ!!

※注:盛大にネタバレしています

 

羆嵐(新潮文庫)

羆嵐(新潮文庫)

 

 

評価:★★★★★(5つ★満点))


【目次】

 

 

概要


日本史上最悪の獣害事件と言われる「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」をモデルにした小説です。北海道開拓時代に1頭の巨大なヒグマが約1週間にわたって貧しい開拓部落を襲い、7人を食い殺して3人に重傷を負わせて人々を恐慌に陥れた様を綿密な取材を元に描いています。


ヒグマの性質や代表的な獣害事件については、↓前回の記事に書きました。

 

aoumiwatatsumi.hatenablog.com

 

 

あらすじ


第一次世界大戦中の大正4年(1915年)暮れ。貧しい開拓地である北海道苫前村六線沢の島川家で一家の主婦と子供の2人がヒグマにより殺害されるところから話は始まります。冬眠に失敗したというこのヒグマは2人の通夜の席にも現れ、さらに盛大に火を焚いていたにも関わらず、隣家の明景家に侵入し子供や妊婦を含む4人を殺害します(胎児を含めると5人)。あまりの被害に、六線沢や、近隣でここより前に開拓されていた三毛別では、海により近い古丹別へ老人・女・子供を避難させます。

 

警察が出動するも効果が見られず、殺された者の遺体を囮のために現場に放置することにも。とうとう三毛別の区長は酒乱で乱暴者ではあるけれど、熊撃ちの専門家である猟師山岡銀四郎を招聘し、ヒグマを仕留めることを依頼します…

 

感想

 

淡々と描かれる恐怖

熊は人類の敵。殲滅せよ。と言いたくなる本でした。

今よりずっと闇の力が強い開拓時代の貧村。気密性なんて無いボロい家屋。暗闇の中人食いヒグマが人骨を噛み砕く音。雪の描写。遺骸を回収しての通夜の席でのヒグマの襲撃(獲物に対する執拗さ)。夫が事件の通報をしに他村へ出かけた中、火をものともせず踏み込んだヒグマに殺される妊婦。人海戦術で仕留められると集まった男達のてんやわんや。暗い視界で、見張りが見る対岸の切り株が6つの筈だったのに「7つに増えている」恐怖。

非情なくらい淡々とした筆で恐怖の日々が描かれていきます。

 

前回の記事で書いたように、ヒグマは獲物に対する執着心がとても強いです。犠牲者を荼毘にふすという人間界の事情のため、喰われかけの遺骸を取り返した行為=ヒグマに喧嘩を売る行為でした。そもそも、ヒグマからすれば勝手にやってきた開拓者達なんて、テリトリーに"餌"が自分から入ってきたようなものです。

 

素人がいくら集まっても駄目

タイトルの『羆嵐』とは、ヒグマを仕留めると吹くという嵐を指します。そう、人喰いヒグマは銀オヤジこと猟師山岡銀四郎に無事射殺されます。良かった、良かった。

 

でもここまでが長いのですよ。銀四郎のキャラクターは、作者の吉村さんの創作がかなり入っているようですが、共同体の鼻つまみもので、「あいつはよしておけ」と皆言う問題を抱えた人物です。事件発生頃には、呑んだくれて借金のカタに大事な銃を預けて、猟どころではありません。

 

だから、警察や、他村の者も含めて沢山集まった男たちが銀四郎などあてにはせんわ!と自分達だけでヒグマを討伐しようとしますが、所詮素人の集まり、手入れを怠った銃の多くは不発だったり、撃っても外れて、挙句の果てに投宿している家で薪が崩れ落ちた音をヒグマの襲来と勘違いして、パニックになる始末。

やはりプロに頼もう、と区長さんが大金を出して銀オヤジを呼び寄せる手配をすると、「何であんなやつを呼んだのだ」と警察の分署長から叱責される憂き目にあいます。

 

真打登場

銀四郎がやっと作品で姿を見せるのが全体のページで言えば70%くらい過ぎて、やっとのところです。それから彼が標的のヒグマを射殺するまでが、丁々発止の知恵比べのバトルの末に…ではなく、あっさり終わります。

 

最初に銀四郎は区長さんと共に、無人となった六線沢の集落に入り現場検証中に件のヒグマを目撃。この時は相手には気付かれませんでした。

その後の山狩りで、フッと「皆と別行動を取る」、と言って(区長さんは同行)そこからわずか6ページ程度で標的を仕留めてしまうのです。標的の気配を感じ取り、視界に入れて射殺まではたった3ページ。直接対決はこれだけです。ここがリアルで凄いなあと思いました。

 

数を頼んで集まった連中が、逆に無駄に時間と労力を浪費する過程は、文庫版で100ページ以上かけて描かれます。その末に、プロが1人登場しただけで、あっという間に解決、という凄み。それも無人となった集落に苛立ったヒグマが人のいるエリアまで出てくるかも?という(殺るなら)今でしょ!!今しかない!という最初で最後のチャンスで決めたのです。


後、更に銀四郎のプロとしての凄みを感じたのは、30m離れた距離で急所を撃ち抜く視力の正確さと度胸。マジでスナイパー。前回の記事で書きましたが、熊は全力だと自動車並みに走るそうです。仮に時速40kmで走るとして、この時撃ち損じたら良くて逃げられる、悪ければ3秒足らずで接近してきて、殺されかねません。時には、「数mまで近づいてヒグマを仕留める」そうで、失敗すなわち死の稼業です。私なら何回死ななきゃならないかな?

 

小説では、銀四郎自身の心情や葛藤はあまり描かれていません(読者は視点人物である区長さんの目を通して伺うしかありません)。作者はヒグマを射殺した直後、この老練な猟師が血の気のすっかり失せた白い顔で振り向く描写で、その恐怖と葛藤を簡潔に表現しています。

 

これが凡百の作家ならば、もっと展開を盛り上げて銀四郎の過去話など織り交ぜて、エモーショナルに描いて…そうした作品なら、本作のように長く読まれる本にはならなかったでしょうね。

 

MVPは三毛別の区長さん

銀四郎も凄いのですが、本作のMVPは、三毛別の区長さんだと思っています!
とても責任感があり、この事件に際し清濁併せ呑んで、癖の強い銀四郎の力を借りようとする区長さんの判断が、結果的に事件の終息につながるのです。

この方は「普通の人」なんですよね。世俗の中にいて(開拓地の中の世間だけど)、共同体の維持のために自分の出来ることを誠実にやっていく。熊への恐怖から、思わず銀四郎の腰にしがみつくへなちょこぶりを見せながら、それでも皆のために立ち上がる。


銀四郎のような凄腕ではないのですが、やるべきことに取り組んでいき、力を尽くす。スーパーヒーローではないこういう市井の"普通の人"たちによって、世界は維持されているのだと思います。

 

余韻のある結末

仕留めたヒグマの肉を銀四郎は「しきたりだ」と戻ってきた集落の皆に食わせるよう指示するのですが、これが彼らがこの地に根を下ろすイニシエーションとして描かれている印象でした。人もヒグマも、食うか食われるかなんですよ。"共生"なんて綺麗事だと思います。

そして事件終息後、老いた銀四郎最後の猟とその後の死、人が戻った六線沢について語られます。結局一度廃村になるのですが、その後こんなデンジャラスエリアに、戦後満州からの引揚者達が知らずに入植します。何も説明せず「住め」というお役所が鬼畜過ぎ。

 

中々読み進められず、途中一旦図書館に返却しましたが、面白かったです。

ヒグマの恐ろしさ(『羆嵐』を読んで)

読書会の課題本のため、吉村 昭氏の小説『羆嵐』を図書館にて借りて読了しました。
日本史上最悪の獣害事件と言われる「三毛別羆事件(さんけべつひぐまじけん)」をモデルにした小説です。

f:id:aoumiwatatsumi:20210217182627j:plain


小説の感想は後日また記事にするとして、 ここでは熊、特に北海道に生息するエゾヒグマ(ここではヒグマと呼びます)に絞って、過去の獣害事件やその習性等についてまとめました。知れば知る程、恐ろしくなりました。襲い掛かられて、咄嗟に投げ飛ばして助かった、というのは本州のツキノワグマレベルの話です。

 

【目次】

 

ヒグマの特徴

 

身体が大きい

 

体長はオスが約1.9 - 2.3m、メスが約1.6 - 1.8m。体重はオス約120 - 250kg、メスが約150 - 160kg位だそうです。

エゾヒグマ - Wikipedia


羆嵐』の人食い熊(オス)は、体長2.7m、体重383kgで、実際の三毛別の事件のヒグマもほぼその通りだったようです。

身体が大きいということは、まず力が半端なく強いということ、そして、それだけの身体を維持するには…そう、沢山食べなければならないのです。

 

 

共食いする

 

ヒグマは雑食性だそうです。木の実や草も食べるようですが、魚やお肉も食べます。場合によっては人間もいただきます。屍肉も食べるので、「死んだふり」は効きません!
前述したように、大きい身体を維持するには、沢山食べる必要があるので、弱くてとろくてそれなりの大きさがある人間なんて、格好の"餌"です。
また、ヒグマに限らず、彼らは共食いをします。山で熊の死体を見かけないと言われますが、やはりそれなりの大きさがある"餌"となると、同族の死骸なんてうってつけです。子育て中の母熊が、絶対に同族を近づけないのは、自分の子熊が"餌"にされるからです(オスの熊なんて超危険)。

 

 

素早い

 

ヒグマは時速40kmで走れるそうです。舗装された道路ではなく、岩や凹凸や傾斜のある山の斜面での話です。全速力で60kmなんていう話も聞きますが(平地での話?)、とにかく自動車並の速さ。多少離れていても、安心は出来ません。また、木登りにも優れ、泳ぐことも上手いそうです。チート過ぎ。

 

嗅覚が鋭い


目はあまり良くないようですが、嗅覚や聴覚は鋭いようです。犬よりも遥かに優れた嗅覚で数キロ先の匂いも嗅ぎつけるそうです。風向きを見ないと、猟師でも接近を察知されてしまいます。

 

執着心が強い

 

縄張り意識が強く、また一度自分のものにした獲物を取り上げられると、どこまでも追ってきます(嗅覚も強いし、速いし振り切れない)。登山者が一旦ヒグマに荷物をあさられたら、絶対に取り返そうとしては駄目です。また、食いかけの死骸を取り返そうとするのも駄目。それはヒグマに喧嘩を売る行為です。相手を殺さない限り、取り返せません。

 

火を恐れない

 

獣類は、一般に火を恐れると言いますが、これまで起こった獣害事件では、火を盛大に焚いている家にも侵入してくるそうです。むしろ、「人がいる」のを知らせることになりかねないとか(怖)

 

賢い

 

ヒグマは知能が高いようです。イヌと霊長類の間という研究結果が出ています。好奇心旺盛で、学習能力も高いとか。記憶力に優れ、危険は場所や、隠した獲物の場所も忘れません。
そして、その習性を熟知したハンターでないと、裏をかいて返り打ちにする巧妙さがあります。

 

羆嵐』に彼らの「戻り足」という習性が紹介されています。ヒグマは、自分の足跡が猟師の追跡をまねくと理解します。そして、その嗅覚で自分を狙う猟師の接近をに気付くと、今まで歩いてきた道の自分の足跡を後ろ向きにたどって戻り、ある程度きたら近くの繁みに隠れて待ち、やってきた追跡者を後ろから襲うそうです。


強いだけでなく、奸計をめぐらす程賢いなんて最悪です。ちょっと違いますが、↓これを思い出しました。

 

「もっとも恐るべき化物とは何か わかるかねインテグラ
「………吸血鬼」
「そうだその通りだよ 我らが宿敵吸血鬼だよインテグラ
 ではなぜ吸血鬼はそれほどまでに恐ろしい?」
(中略)
「…………力が強い?」
「そうだ 吸血鬼はとっても力持ちなのだよ インテグラ
 反射神経 集中力 第六感 身体能力 特殊能力
 耐久力 吸血能力 変身能力 不死性 etcエトセトラ etcエト     

 セトラ
 しかし最も恐るべきはその純粋な暴力………『力』だ
 人間達を軽々とぼろ雑巾の様に引きちぎる
 そしてたちの悪いことに吸血鬼達はその力を自覚している
 単一能としてでなく 彼の理知ロジックを持って力を行使する

 『暴君』だ 吸血鬼との近接戦闘は死を意味する
 いいかねインテグラ 吸血鬼とは知性ある
 血を吸う『鬼』なのだ これを最悪といわず何をいうのか」

 
(以上『HELLSING』4巻 平野 耕太 著 少年画報社 より引用)

 

HELLSING(4) (ヤングキングコミックス)

HELLSING(4) (ヤングキングコミックス)

 

 

過去の獣害事件


以下のまとめられたページがおすすめ。

akistyle.jp


福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件」については、ここ↓もおすすめ。亡くなられた方の残したメモが本当に、怖いです。

www.ne.jp


私は、大昔、山登りをしていた時期があり、北海道の山も行った事があります。熊よけに鈴を付けていった程度の対策でした。たしか、メンバーの間で熊スプレーも所持も提案されたけど、そこまでしなくていいか、みたいに却下されました。
縦走する途中で、「ヒグマを見かけた」(実際は遠目に見える程度だったようですが)という他の登山客が口々に言っているのを、同行のメンバーとわりとのんびり聞いていた記憶があります。当時、こんな事件があった事をちゃんと調べていたら…

 

この事件に関しては、北海道の山へ入ることに対して、ヒグマへの対策や事前勉強をしていなかったのが悔やまれます。ヒグマは執着心が強く、一度確保した獲物を取り上げられると、どこまでも追いかけてくるそうです。この事件でも、被害者達がヒグマが一旦あさった自分達の荷を取り返したのが駄目だったとか。荷をあきらめて、とにかくすぐ全員で下山すべきでした。

しかし、後から言ってもしょうがないですけどね。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。

 

星野道夫氏がヒグマに食われた事件は、当時状況を知らないまま、「莫迦な人もいるんだな~」で済ませていました。しかし星野氏は熊のことに熟知されていたようだし、関係者によって違う事を言っているようで、真相は藪の中です。


「ペトロパブロフスク羆事件」、携帯電話で正に自分が食われている過程を実況中継しながら死んでいくなんて、経験したくないです((((;゚Д゚)))ガクガクブルブル

 

で、小説『羆嵐』の感想は、次回で述べます。

 

緑の指は持っていません

折角、折角…震災から10年経とうとして、コロナ禍もある中なんとか前を向いて行こうとしている方々に、今になって"余震"って…なんて仕打ちだろうかと思います。
そう沈んでいたところ、なんと!私の好きなブログ主さんが長い休止から復活されていたのを確認!良かった…悪いことだけじゃあないのです。


ところで、植物を上手く育てられる方を尊敬します(自分がそうではないので)。

 

f:id:aoumiwatatsumi:20210214230647j:plain

こんなことも昔ありました




【目次】

 

 

 

我が家の現状


現在、うちで生き残っている植物は、室内に入れているシャコバサボテン(これだけ何年か世話している)・サンスベリア(昨年末ダ○ソーで購入)と、ベランダに出しているオキシペタラム(ブルースター)・ポーチュラカですが、ベランダ組がちょっと不安。春にちゃんと芽が出てくれるかどうか…
そして先日、サンスベリアと一緒にダ○ソーで購入したドラセナ(所謂"幸福の木")を枯らしてしまいました(涙)

 


私の望み


部屋に緑がある生活に、憧れます。でも上手く世話できずに枯らしてしまう事が多くて買っては枯らし、買っては枯らし…(;´Д`)。一年草なら仕方ないかと思いますが、多年草は、1年跨いで世話がしたいです。
憧れるのは、100円ショップで購入した鉢を長く育てて、どーんと大きくした!とか、購入後10年目で初めて花が咲いた!とかそんな話。
で!かつ、なるべく楽に手抜きして世話をすること…莫迦ですね。

 


失敗と原因について

 

これはもうハッキリしています。きちんと各種の育て方を調べて、土や水やりを考えてあげなかったことでしょう。
土は、赤玉土や、鹿沼土やら、聞いていると頭痛がしてきます(死)。だから、配合済みの既製品を使ってばかりです。余らせても困りますしね。

枯らせてしまったドラセナは、購入時鉢にさしてあった育て方(「2日に1回水をやってください」)を鵜呑みにしたのが駄目だったようです。「一週間に1~2回程度水やり」とか、「厳冬期の1、2月は月一回程度の水やりで良い」とか後から調べるうちに、間違いが分かってきました。しかも、「ドラセナは育てやすいです♪」って…

どうしてくれる!ダ○ソーヽ(`Д´)ノウワァァン!!… と人のせいにしてはいけませんね。可哀想なことをしてしまいました。。


生き残っているシャコバサボテンも、一度たった2枝くらいまで減って、枯れ死寸前な時期がありました。その後、世話の仕方を調べて改善しました。サボテン専用の土を取り寄せて、決まった時期に植え替えをしたり剪定したりして、クリスマスには綺麗に咲いてくれるようになりました。

 


それでも懲りずにトライする

 

ドラセナショックの後、また懲りずにダ○ソーでクロトンの鉢を購入しました(330円)。どれを買おうか、うんうん20分位悩んだ末にです。画家の田中一村のモチーフの一つなんですよね、クロトン。

 

f:id:aoumiwatatsumi:20210214232555j:plain


こいつはなんとか生き延びさせてやりたいです。これから暖かくなっていくので、秋までは大丈夫かと思っていますが(今は屋内)、次の冬は越せるかどうか…勉強しつつ頑張ります。
花の鉢も1種育てたいものがありますが、今年はそれぐらいにして、種別に丁寧に見た方が良いかなと思っています。


P.S.

インテリアショップで、1万円、2万円の風格あるサボテンやアロエの鉢を見てクラクラしますが、買いません!(枯らした時のダメージ半端なさそう)

『深川安楽亭』山本周五郎 著 感想(ネタバレあり)

皆さん、昨夜の地震は大丈夫でしたか?あと約1ヶ月で東日本大震災から10年目だというのに…

 

ところで、山本周五郎の小説『深川安楽亭』の感想です。

※注:盛大にネタバレしています

 

深川安楽亭 (新潮文庫)

深川安楽亭 (新潮文庫)

 

 

 

評価:★★★★★(5つ★満点))


山本周五郎は、私の大好きな作家の一人です。
まだまだ未読の話が多く、これから読む楽しみがあるのが嬉しいです。

『深川安楽亭』は朗読で2回聞いた後で結局図書館で収録本を借りて読みました。

 

この小説は、これまで読んだ山本周五郎作品の中では異様な印象を与える話です。

 

舞台は深川の「島」と言われる場所にある一見さんお断りの居酒屋、安楽亭

その実態は、今なら適応障害だの人格障害だの、発達障害だの診断されそうな
「内面がかたわ」なはぐれ者達の吹き溜まりであり、実は密貿易の拠点となっているデンジャラスなスポット。
どちらかというと悪役サイドが主役の話なのです。

 

(注;以下ネタバレあります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たまらないのは、殺人したばかりの登場人物が(しかも“慣れている”感アリアリ)その直後に親からはぐれた子雀を拾って、「おっ母さんとはぐれたのか」と世話を焼くくだりが…もう…
その人物の母親との何か訳ありな様子がキャラ造形に奥行を感じさせるアクセントになっています。

 

しかーし、名も名乗らない"客"がもっと早く、大金の事を打ち明けていたら、あんな死傷者も出なくてすんだのでは?と思います。

利他的な行動(※失敗したけど)をとった後でも堅気者達が去った後は平常運転な安楽亭の面々がイイんです。

 

個人的には亭主の幾造の娘が興味深かったです。あんな環境で無頼者達の慰み物にならないかと思うのですが、その様な事もなさそうで、無法地帯になじんで動じないでいます。

やりたいことを仕事にする

タイトルについてですが、つらつら思うこと。

 

20代までなら、まだ若いのだし、「やりたいことを仕事に」しようとチャレンジしても別に良いのではないかと思います。30歳になる頃までに現実を見て、考えて、その後の身の振り方を考えても遅くは無いでしょう。

f:id:aoumiwatatsumi:20210213135749j:plain

 

でも、30代になっても「やりたいことを仕事にする」という考えにいまだ執着している人を見ると、「頭に虫でも湧いているの?」と言いたくなります。
それまで、20代をきっちり働いて、キャリアを積み上げる事に費やしてきた人が30代以降シフトチェンジするのは別ですが、碌なキャリアの積み重ねも無くそんな世迷言を言っている人の場合です。


「好きなこと、やりたいことを仕事にする」人ってほんの僅かだと良く言われますが、実現するかどうかは、本人の意志すら超えたものでは無いかと思っています。

それに、"その仕事"が本当にやりたいのか、"その職業についていること"が目標になっているのか、そのへんの見極めも必要になってくるのでは。

 

そうそう、「好きなことは嫌いになることもある」という意味の金言が↓この本に出ていました(昔読んだのでうろ覚え)。本当に、「こと」でも「もの」でも「ひと」でも…どんなに好きだとしても嫌いになることってあるんですよ…

 

 
そうしたら、どうしますか?自分がやる仕事が好きかどうかにそんなにこだわる必要があるかな?と私が疑問に思う所以です。

仕事って、生きる為の方便で、それ以上でもそれ以下でも無いと思うのですが。「好きなことを仕事に」しなくても、オフに趣味や副業やボランティアの形でやれば良いと思うし。もしかしたらそこから発展していって、本業になることだってあるだろうけど、それはその時のこと。

 

ところで、ネットサーフィンしていると、なんだか皆今の仕事が嫌で嫌でしょうがない人達ばかりと言わんばかりの主張を見つけて驚くのですが、これはそういう人相手に商売したい人達のアジテーションでしょうかね?うさんくさいものを感じます。

 

私は、障害者である自分を好条件で雇ってくれる今の職場には非常に感謝していますが、それでも「この仕事やりたくない、会社行きたくない」と内心泣きながら通勤していた時期もありました。

現実逃避にクトゥルフ神話を読みふけったり(笑)

 

 

 

 

 

でも、結局"仕事"と"嫌い"とは関係無い、という結論になります(ブラック企業や、非合法な、人をあきらかに傷つけるような仕事なら論外ですよ?)。あちこちで仕事が続かずに転々としていたので、好きか嫌いかより、「続けて雇ってくれる」だけで涙が出る程有難いんですが。


要するに「私がやりたい仕事」とは、「私を(クビにせず)雇ってくれる職場の仕事」、これです。
「今の職場も仕事も定年まで続けたい、会社が無事存続してくれますように~南無南無」と日々呪いを、いや祈りを捧げている私が「いつまでやりたくもない仕事を続けているの?」という言葉に1ミリでも動かされないのはそのせいでしょうか。

 

"やりたい仕事"、もうやっているよ!

『恋するシェフの最強レシピ』感想(ネタバレあり)

※盛大にネタバレしています


Amazon Primeで無料期間終了間近に、大慌てで金城 武さん出演の映画『恋するシェフの最強レシピ』を視聴しました。

f:id:aoumiwatatsumi:20210211152536j:plain

 

2017年製作/106分/香港・中国合作
原題:This Is Not What I Expected
配給:ハーク
評価:★★★★☆(5つ★満点))

 

 


あらすじ


冷徹なやり手の実業家(資産350億米ドル)で世界の美食に通じたグルマンでもあるルー・ジン(金城武)。ある時、のだめみたいな規格外な女、ションナン(チョウ・ドンユィ)と最悪な出会いをします。
実は、彼女は、ルーが買収した上海の老舗ホテルで働く、見習いシェフだったのです。たまたま、ションナンが天才的なひらめきで作った料理に魅了されたルーは、シェフの正体を知らないまま彼女に魅了されていきます。ションナンも、わがままな雇用主に求められるまま、才能を開花させていきます。
そうこうしていく内にお互いの正体を知り、食を通して、更に接近していく二人。ところが、ションナンを上回る腕とキャリアを持つジンの専属である美人シェフ(リン・チーリン)が立ちはだかり…

 


感想

 

冷酷でスパダリな実業家(でも実は孤独で愛を求めている)が、ド庶民の天然なドジッ娘(でもピュアなところがある)と出会い、反発したり危機を迎えたりした末に、本当に"大切なもの"を見いだしてゴールインする…ここまで読んで、既視感でクラクラされた方、大丈夫ですか?私もこの手の話には200回位接した気が(笑)

 

f:id:aoumiwatatsumi:20210211153136j:plain


今更なパターンですが、大変楽しく鑑賞しました。好きですよこの映画。

100分超の尺を使って、やっと最後に手をつないで肩を寄せる事になる二人。
途中、女子の部屋におじさんが来て、食事を堪能してはぐうぐう眠って何も無いという(笑)展開もあり、結局キスシーンも交尾シーンも無く、「これから」と感じさせる所がかえって良いロマコメでした。

 

お互いの正体を知らないまま、食を間にコミュニケーションを深める→孤食一辺倒だった男が、食の在り方―誰かと食べる楽しさ―を教えられる→危機を経て、女が自分には必要だと気付く男→お互いの思いを再確認後、初めて男が作った料理を二人で肩寄せて食べる…という話の流れも良かったです。ちょっと話が冗長かと思ったので★4つにしました。


昔から、「金城 武が好きだ」と言いつつ、作品は『レッドクリフ』の2作だけという体たらくですが、本作で3作目となりました。いや、良かったです。金城 武さんは当時、44、5歳との事ですが、イケメンはおじさんになっても素敵なんですね。彼は、ハンサムなだけでなく、チャーミングな魅力があるから好きです。


そんな金城さんが演じるジンは、気に入らない味なら、どんな高級料理でも一口で吐き出す傲慢さがありつつ、「出前一丁」を常にスーツケース一杯に携帯し、拘りの調理法で作って食べる一面もあります。これが、最後にルーがションナンに作って一緒に食べる展開が良いんですよ~ (*´Д`*)ポポンッ


食に関する言葉も中々深遠なものがあり、印象的。

「料理は心の暗証番号を解く鍵」
「皿の汚れが残っていないと客のことが分からない」
「食事はデリケートな問題なの」
「人の好みは変わっても習慣は変わらない」

 

そうそう、ルーのパパ(財界の大物)がある意味突き抜けていました。

「350億の金を動かしているんだ、我々は普通な訳がない」
「嫌われて孤立すれば、他人に影響されることも無い」
「私は心血を注いでお前をこんな嫌な男に育てた 感謝してくれ」

いやあ、中島 義道さんみたい…(笑)最終的に息子に「あなたは可哀想な人ですね」と使い古されたワードをぶつけられちゃいますが。

 

私の嫌いな10の人びと (新潮文庫)

私の嫌いな10の人びと (新潮文庫)

 

 

気になったのは、ルーやルーのパパが常時孤食なところ。中国人って(華僑でも)大勢でワイガヤ食べるのが伝統じゃあなかったですか?
後、本作は西洋料理中心で、火鍋以外余り中華な料理が出て来なかったような。中華料理こそ、フランス料理に代表される西洋の食に対してそびえ立つ、もう一つの偉大な頂きだというのに。

漬けこむ楽しみ

元々自炊中心ですが、このコロナ禍でテレワークするようになって(外食も更に減った)、料理する頻度が高くなっています。私は発酵やら熟成で食材の旨味を増していただくのが大好き。以下ヘビロテで作っている料理の紹介です。

 

塩豚


こんなに簡単でかつ美味しいのに、何で流行らないんでしょうかね?
豚バラやヒレやロースのブロックに塩を擦り込んで、2~3日冷蔵庫で寝かせるだけ(4日くらいの時もあります)。ハーブを擦り込むのも良し。これで熟成して、ただ焼くだけで立派な一品になるんですから。

f:id:aoumiwatatsumi:20210210211801j:plain

どーん。ポトフを鍋一杯に作りました

f:id:aoumiwatatsumi:20210210211837j:plain

マスタード添えて


薄切り肉でもやりますが、今回は豚バラブロックで塩豚作って(香りづけにクローブ挿しました)、ポトフに使ったら絶品でした。
↓いつも、ポトフはこのレシピにそって作っています。

youpouch.com


ポトフと言えば、柚木麻子さんの『ランチのアッコちゃん』の東京ポトフ!
この本のお蔭で、「ポトフにおにぎり」という組み合わせに目覚めました♪

 

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

 

 


残ったスープでおじやという楽しみもあります(´ω`*)

 


ぬか漬け

 

ぬか床さえ作ってしまえば、超楽ちんで食卓に貢献してくれるのがぬか漬け。今は発酵済のぬか床も市販されていますしね。

f:id:aoumiwatatsumi:20210210211956j:plain

きゅうりと紅芯大根


うちではぬか床を冷蔵庫に保管しているので、毎日かき混ぜることにはこだわりません。ぐーたら管理です。多少数日放置して表面が白くなっても、かき混ぜれば問題ありません。「これは漬けて〇日だから今日食べなきゃ」なんてこともこだわらない。
漬かりが足りないのはともかく、少しくらい長く漬かっていても大丈夫、美味しいです。

だいたい、野菜が欲しいと思った時に、その時漬けているものを取り出す、又はスペースに空きが出来たら、野菜を切って入れて、ついでにぬか床をかき混ぜる。こんな使い方です。

ぬか漬けや、自家製発酵食については、また改めて記事にしたいと思います。

 


魚の粕漬け

 

冬は粕汁を作るので、冷蔵庫に板粕が余ります。
その消費のため、良くやるのは粕漬け(主に魚で。野菜はぬか漬けに行くので)です。

f:id:aoumiwatatsumi:20210210212134j:plain

滑らかにいかない

 

酒粕を細かく刻んで常温に戻してから、味噌(あれば塩こうじも)と日本酒を合わせて作ったペーストを白身魚の切り身に塗り付けて一晩おけば、簡単に粕漬けが出来ます。
上手くペーストにならなかったり、切り身に塗り付けるのがちょっと面倒ですが、翌日焼いていただけばいいので、後が楽です。お店で買うものと違い、余計なものが入っていないので、安全ですし。


ほら!

 

f:id:aoumiwatatsumi:20210210212220j:plain

もっと美味しそうな写真になるよう精進します