青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』稲垣 栄洋 著、あてにならないA●azonレビュー

年度の変わり目も超えて、上司と話し合って、少し仕事量を減らしてもらうことに…(∩´∀`)∩ワーイ

 

さて、最近読んだ『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』という本の感想です(注:ほぼ罵り、ディスっている内容ですのでそのつもりでお読みください)

 

酷い本でした

 

 

A●azonで本書についてレビューをしたのですが、ボロクソに書いているのでもしかして審査を通らず反映されない可能性があります。

A●azonと読書メーターに上げた感想を元に、このブログでもまとめておきます。(久しぶりのブログ更新を、好きでもない本の記事にしてしまうというのが業が深いと言いますか…(´・ω・`)ショボーン)

 

では、以下感想です。

 

『はずれ者が進化をつくる 生き物をめぐる個性の秘密』は、先日私が行った一箱古本市で購入したものです。

 

お天気で、良かったです

 

この本を売っていた出店者の方が嬉しそうに進めてきて、若干嫌な予感もしていたのですが、興味もあり…A●azonレビューの評価も上々なようなので、購入しました。著者の本は初めてでしたが、以前参加した読書会で、『生き物の死にざま』を推していた方がおられたのを思い出し、「面白いのかな?」と思ったことも大きいです。

 

もしかすると「この世は荒野だ!唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することが出来るのだ!!」とか、「所詮この世は弱肉強食 強ければ生き弱ければ死ぬ」…というような一般常識の裏をかくような意外な事実を、科学者の先生が論理的に明快に痛快に分かり易く語ってくれているのかな…?と期待まじりに。

 

で、読みましたが…

 

自分は読み終わった本は大抵、ブッ●オフに売るようにしていますが、本書はそうせず処分するつもりです。私一人の影響力なんて無いも同然でしょうがどうしてもこの酷い出来の本を再び世に出すことを自分に許すことができません。もう、焚書レベル

 

こんな本をプロパー価格で購入し、最後まで読んだ自分を呪いたいです。

 

本書は東京シューレ葛飾中学校の生徒に接した著者が、どうやら生きづらさを抱える若い人たちへ向けてメッセージを届けたかったようで、生物の進化の話に見せかけて、実際は人間向けの人生訓・処世訓的なものを延々と語っています。

 

そうだとしても、もっと上手く語れないのか?と思いますが。

 

本書は、「弱くたっていいんだよ」「戦わなくたっていいんだよ」「負けたっていいんだよ」「ナンバー1でなくてもいい、オンリー1を目指そう」「あなたはありのままでいいんだよ」「頑張らなくてもいいんだよ」…この程度の言葉に慰められ、ほだされ、真に受けるーそういうレベルの読者層をターゲットとして作られ、出版された本だということです。狙いは成功したのか、版を重ねて中学入試の出題にも使われているようです。ネットのレビューでも評判は上々。良かったですね(自分から見たら絶望的ですが)。

 

本書で書かれる生物や進化の知見は、私のような文系人間でも知っている程度のもので目新しさはありませんでしたし、何より、全然科学的・論理的でなく、同じ本の中で論理が破綻しているわ、へんに情緒的・おしつけがましい論調で、後半は同じことを繰り返しているばかりで(繰り言?)、読んでいて苦痛でした。最後まで読んだ自分を褒めてやりたい…いや罵りたいです。

 

例えば、本書21ページで著者はこう言い切っています。

「…自然界では多様性が大切にされます。それなのに、タンポポの花はどれもほとんど黄色です。」

その理由として、主にアブの仲間(黄色い花に来やすい性質がある)が花粉媒介者だから、と説明していますが、ここで私は「(´・ω`・ )エッ?私が子供の頃、白いタンポポを近所で見かけたけど?」と引っかかってしまいました。

確かに、今から読み返すと(※読み返したくなかったけれど)この部分、「ほとんど黄色」という表現なので、黄色以外の色の花もある、とも読めますが…それが89ページでは「自然に生えるタンポポは黄色一色」と断言してしまっています。

 

自然のタンポポの花は黄色一色!…本当に?


他にも、「(野生の)スミレの花の色は紫だけ」と言い切っていて、この記述についても私は、「スミレって黄色や白系、赤系とかあるよね?」と悩んでしまいました。

 

それで、まず「この本おかしい…」という気持で読み進めていたのですが、92ページ以降で急に「タンポポと呼ばれる植物は六〇種類以上もあるとされていて、中には、シロバナタンポポのように、白い花を咲かせる種類もあります。(中略)シロバナタンポポにとっては、花の色は白色がベストなのです。」という文章が出てきてひっくり返りそうになりました。「スミレの仲間にもキスミレという花が黄色い種類のものがあります。また、シロスミレのように花が白い種類もありますが、一般的はスミレという植物は花が紫色です。」とまで書かれています。


これまでの断言はなんだったのでしょう?しかも、シロバナタンポポや、キスミレ、シロスミレの色の必然性(どのように生存戦略に有利なのか、とか)は全く説明は無し。

 

他にも144ページで「自然界の動物たちは戦いません。戦いに負けることは滅びることを意味しているからです。しかし、小さなチャレンジを繰り返します…」と述べられていますが、だったら何故、136ページで「自然界では、激しい生存競争が繰り広げられます。生物の進化の中で、生物たちは戦い続けました。…」などのように矛盾した書き方をするのでしょうか。結局戦っているんじゃねーか!(笑)このように、発言に一貫性がないのです。

 

どこでも皆必死なんですよ

 

142ページの「生命の歴史を振り返ってみれば、進化を作りだしてきた者は、常に追いやられ、迫害された弱者であり、敗者でした。」という著者の意見には一理あると思います。気候変動などで、それまでの環境ではぐれ者だった種の生存に有利な状況になることはありますから(皆特定の環境に適応できている生物ばかりだと滅ぶ)。

 

こういうことに例えて、著者は(人間の)読者へ向けて、メッセージを送っている訳です。「今生きづらいあなたたちは、いや、あなたたちこそが、今後世界に大きな変化が来た時に、その力を発揮して活躍する可能性を秘めていますよ」…と言った感じに。

…なんだかカルト宗教の勧誘みたいですね。

 

ただし、その「追いやられ、迫害された弱者であり、敗者」の中でも、実際に生き残れず滅んでいった種がこれまで沢山あったであろう、ということについてはスルーしているように見えます。生物学の知見の中から、著者の訴えたい思想に都合の良い部分だけ抽出して語っているのです。

 

「おわりに」での、著者の個性についての語りも酷いものです。
学生たちに対して「個性を強みにして、個性を伸ばしてほしい」と希望しつつも、指導をする上で、「まったくバラバラでも困ります」と本音を出し、「つまり私のいう個性的は単に「勉強だけができる優等生ではない」ということであり、私がイメージする「個性的である」ところで、それなりにまとまってほしいと思っていたのです」と随分ご自分に都合の良い要求をしています(笑)個性的でいいんだよ、でも管理指導する側を手こずらせないでね?と言いたいのでしょう。

 

こんな制限を受けた中で、有事に進化(生き残り)が可能でしょうかね?そして、こんな逃げ腰なことを言う人に、生きづらさを抱えて、躓いてしまった子供たちが心を開くでしょうか?子供はこういう欺瞞をちゃんと見抜きますよ。バカにするなと言いたい。

 

最後に、帯の「私たち、頑張らなかったから生き残りましたー」というコピー、これも如何にもこういう言葉にひっかかりそうな”弱さ”を抱えた人たち―現実逃避的で、耳ざわりの良い言葉に癒されたい―をターゲットにしている感じですね。これは、出版社の責任かと思いますが。

 

こんな甘言につられて買うバカ(※私含む)がいる訳です

 

少なくとも、私が本書を読んで受け取ったのは「進化の中で一時的に生き残ることができても、更なる不断のチャレンジを繰り返していかなければ、先はないぞ」という現実であり、世知辛いなあ、やっぱり生き続けるのは楽ではないね…(´・ω・`)という感想でした。帯に偽りありです。

 

もう、編集が機能していないとしか言いようがありません。前々から感じていましたが、わりと前から、本書に限らず編集者の質が落ちている印象があります。『土偶を読む』なんてアホな本を世に出してしまう位ですから(そしてその本が売れてしまう…)。

 

 

まあ、編集者達からしたらそんなことはどうでも良いのでしょうね、本が売れさえすれば良いので。出版界は本当にヤバいようですし…

 

恥をさらしますと、若い時期、こういう「癒し本」に慰めを得ていたこともあります。でもそういう本は、前述のように現実手逃避的な「弱い」読者層をターゲットとしているものに過ぎません。そういう商売に食い物にされているバカなんです。こういう本を読んで喜んでいる手合いは。

 

私は、昔も今もとても弱い人間ですが、かつてのように世知辛い現実から目をそらして、こんな薄っぺらな”癒し”な語りにほだされ、停滞していることはもうできません。…戻ることはできないのです。

 

弱者の生存戦略、弱いままで生きていくことについて、もっとましな本は沢山ありますけどね。これはダメダメな本でした。

 

ツツジ

 

それでは、また!