青海のブログ

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『トラックドライバーにも言わせて』橋本 愛喜 著 感想

こんばんは。読んでからもう1カ月近く経っていますが橋本 愛喜さんの著書『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)の感想をあげておきます。おすすめですよ!

 

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読破に時間がかかった~

評価:★★★★★(5つ★満点))

※内容について、盛大にネタバレしています

 

 

【目次】

 

現場からの視点で書かれた本

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日本の陸運の9割がトラック輸送という現実

著者であるライターの橋本 愛喜さん(女性です)はかつて実家の金型工場を継いだ関係で(2013年に廃業)、得意先から金型を引き取ったり納品するためトラックでの中・長距離ドライバーとしてのキャリアをお持ちです。1日平均500キロ、多い時には800~1000キロ走行されていたそうです。


本書では著者ご自身の経験に留まらず、現役ドライバー達や運送会社への取材を元に、トラックドライバーが置かれた現状を業界内だけでなく、一般の人達にも読んでもらえるよう、分かり易い筆致で書かれています。執筆中に起こった京浜急行線とトラックとの衝突事故(2019年9年)も急遽盛り込み、現場まで足を運んで取材されていることもあり、トラックドライバーのみならず、物流業界、いや日本社会全体の問題にまで踏み込まれています。

 

国の血液

「日本の貨物輸送の9割超がトラック」という現実は、よく「国の血液」に例えられます。トラック輸送なしに私達の暮らしは成り立ちません。特に今はコロナ禍で、ネット通販の利用が拡大しており、物流量の増加とともに、ますますその需要が増大しています。が、「物流業界のトラックドライバー」がいかに過酷な環境で働いているのか読んでいて心が痛かったです。

 

各種類のトラックの特徴と特殊性

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トラックと言っても色々な車種がある

まず印象的なのは、トラックの車種ごとの特徴や、運転上つきもののリスクについて。トラックは「荷物を積んだ状態」を基準にブレーキが作られていること。日本の道路の特殊性について。そして大型トラックの死角の多さと、いかに一般車両と異なる点が多いかが分かります。
この本、運転教習所の教材にして欲しいくらいです。教習所と言えば、運送業界に若手が入ってこないのには、現在の免許制度が一因となっているのだということも、本書で初めて知りました。

 

全ての行動に”訳”がある

強引な幅寄せや急ブレーキ、必要以上に前の車両と車間を空けて(と見える)ノロノロ運転、堂々と路駐して(アイドリングしたまま!)、運転席を見ればハンドルに足を上げた格好で”サボっている”…よくトラックドライバーが顰蹙をかいがちな「マナーが悪い」とされる行動、これらが全て理由があるからなんだと著者は丁寧に説明します。皆必然の行動だった…!

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トラックドライバーにも人権がある

 

必要とされているのに居場所がない

私もアイドリングしたまま路駐したトラックの横を通る時は、やだなあ、環境にも(私の身体にも)悪そうと思っていましたが、車種によっては、エンジンを切る訳にいかない等事情があることが分かりました。何より、私たちの生活が必要とするからトラック輸送というインフラがあるのに、邪魔者扱いされたり、ネガティブな見方をされるのは切ないです。

しかも、トラックドライバーが安心して駐車して休める場所が、都市部には碌にないのだそうです。例えばトラックステーションは全国でもたった30カ所だとか。信じられません。

 

他にも郊外のコンビニでは、大型車Okな駐車場がある店もありますが、貴重なそのスペースに一般乗用車を駐車している不届き者もいるそうです…というか先日実際に見ました(ꐦ°᷄д°᷅)ヽ(`Д´#)ノ

 

そんな環境の中お客さんである荷主(倉庫や物流センター等)は、「時間通りに来い。遅れるな。でも(近隣住民への配慮のため)早く来るな、外で待機していろ」と言う訳です。でもトラック用の駐車場が無いエリアだったら?そう、路駐して待機するしかないのです。

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倉庫等の現場には早く着きすぎてもいけない

 

現場を知らない縦割り行政?

…といった惨状を知るにつれ、行政が現場の事情を知らないまま色々な法令を出していくのが問題なのではと思いました。交通ルールや労働環境を重視する法律は増加。道路交通法の改正による駐停車禁止の厳罰化や、大型トラックの高速道路80キロ制限に、時速90キロまでしか出せないスピードリミッターの装着義務、デジタルタコグラフを装着で、運転状況を監視。そして運転業のみに適用される「改善基準」など。どれも道路環境やトラックドライバーのためを思って作られたルールなのでしょうが、ドライバーらにとってはむしろ走りにくくなり、より一層労働環境は悪化し、そして昔に比べて稼げなくなったそうです。


深夜の高速のETC料金割引制度が、トラックドライバー達の長時間労働の大きな原因となっている問題も、もう…止めたげて!と思いました。

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過積載を強いられる話も辛かった

 

働き方改革」のしわ寄せ

働き方改革」が施行され、昔からすると連休が随分増えました。このしわ寄せをくらっているトラックドライバーが少なくないようです。地場でコンビニ配送などに従事するルート配送車は、普段以上に忙しくなるので、(大変でしょうが)まだ良いかもしれません。

 

その一方、倉庫や物流センターなどへの配送を担う中・長距離ドライバーの多くは、お客さんである荷主(ここでは倉庫や物流センター)がお休みとなるので、必然的に休みになってしまうそうです。 月の給料が(稼働日数に限らず)固定ならば良いですが、多くの長距離ドライバーの給与体系はそうではなく、稼働日が減ればそれだけ収入が減ってしまうそうです。 1運行の拘束時間は長いのに、休みが多いという辛い状況になってしまう訳です。

 

トラックドライバーは「底辺職」か

他にも色々問題がありすぎて、とてもここには書ききれません。今非常に過酷な労働状況におかれたトラックドライバーを指して「あんな底辺職にだけはつきたくない」という意見もあるそうです。大変失礼な話しで、筆者もそう言う人にはこの仕事はとても勤まらないと書かれています。「トラックの運転」はもちろん、「荷物を安全・無傷。定時に届けること」、むしろ後者が本職で、これら全てをこなせる人材は中々いないと感じました。

 

「日本凄い」で済ませたくない問題

また、著者は海外生活の経験から「日本の物流のサービスや質」が「世界でもズバ抜けて高い」と指摘されています。時間指定配達や、再配達のサービスが無料なのは、日本独自のモノだと言う事も始めて知りました。


外国人が運送業界に参入することが難しいのは、(入管法等の問題もありますが)この「サービスや質」の高さも一因だとか。しかも運転で死亡事故などを起こした際は、国際問題に発展する恐れもある、という事情もあります。

私は前職で外国人達と働いていましたが、確かに彼らは作業スピードへの対応や合理的は判断、器用さが際立っていますが、日本人一般からすれば、雑な人が多いです(全てとは言いません)。

 

だからと言って、「日本凄い」という気持ちにはとてもなりません。日本は行き過ぎだと思います。

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再配達問題は結構深刻です

宅急便の配達で時間指定した客が、在宅なのに「寝起きの顔を見られたくないから」と居留守を使う話には腹が立ちました。今は置き配が浸透してきましたが、再配達件数の多さが、実は排気ガス排出量の多さにつながる―心無い消費者のこのような態度の積み重ねが、環境問題に関係している―という話も考えさせられます。

 

職場でも好評でした

本書を読み通す事は、(適性が無さ過ぎて)運転を止めた自分には、結構辛い記憶が沸きあがる作業でした。それで時間もかかったのですが…


それが、職場(物流会社)で人に貸したら、「面白かった!! (*´∀`)」と好評でホッとしました。案外早く返却されたなと思ったら「○○さんも面白かったって!!✧٩(ˊωˋ*)و✧」って。

ちょ…又貸しですか(笑)。いいですけど、二人とも読むの早いなあ。

 

運転のプロだというだけでトラックドライバーは自分から見たら凄い存在です。また、日々恩恵を受けている側としても、感謝が絶えません。彼らの環境が少しでも改善されることを強く願っています。

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本当にご苦労様です

 

それでは、また!