青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

結婚したい

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私がまだ「健常者」として、様々な派遣先を転々としていた頃のことです。
ある時通信業界の会社へ派遣されましたが、そこは港湾近くの辺鄙な倉庫街にありました。

 

最寄駅へのアクセスがまずかかり、駅前にはマクドナルドと居酒屋がいくつかありますが、そこから徒歩10分の職場への道程にコンビニが1店あるくらい。夏暑く、冬寒い場所で、大きなクラブがある他は、スーパーも個人商店も皆無。企業のビルや倉庫ばかりで、人の住まいは全くない地域でした。

 

通信業界の事業所は、皆このようなアクセスが容易でない辺鄙で不便な場所で、仕事は拘束時間が長い、しかも派遣は数ヶ月単位の契約で終わり…という事は段々知っていく事になるのですが。
もう一つ、この業界は"人"という点で、「吹き溜まり」でした。(自分を含め)色々と民度が低く残念な人達の集まりで、まともな職場ではありえない事が色々ありました。まさにエリック・ホッファーの言う「不適応者」の群れといったところでした。

 

 

aoumiwatatsumi.hatenablog.com

 

 

ここで、別の会社から派遣されてきたSさんに出会いました。彼女は東北出身で、当時50代初め。学生時代はテニスの選手で鳴らしたそうで、非常に外向的で機転が利き、仕事が出来る人でした(私とは大違い)。立派なおばさんですが、とても話しやすく、その高い社交性で老若男女問わず人を集めるタイプでした。


そんな人が何故こんな吹き溜まりに来たかというと、長年勤めた派遣先で我慢出来ない事があったようで、ケンカするようにして出てきたとか。年齢的に良い仕事が無くて、仕方なく自宅から遠方のこの派遣先に決めたそうです。でも、色々なことに「ありえない」「絶対転職する」と言って、結局契約満了前にもっと良い条件の派遣先に採用を決めて、出ていかれました。スキルもありましたしね。


その仕事振りにこれまでの派遣先で「正社員に」と言われた事が何度もあるそうです。
でも、彼女はその都度断わってきました。
なぜか?彼女はバツイチの独身(子供はいない)でしたが「また結婚するから」と当然のように言っていました(そういいながらもう何年も経っているようでしたが)。

非常に結婚願望が強く「結婚したら、正社員として勤めるのは難しい」という彼女なりの責任感で派遣に留まっていました。そう、最初の結婚も、結構早く(20代始めだったかな?)旦那さんには猛アタックで攻めて攻めてスピード婚だったそうです。

 

年齢的に、そんな事言ってー、と思いますか?でも、実はSさんは結構モテていたんです!当時も髙島屋の食堂なんかでデートしたりして、「結婚を前途にお付き合いさせてもらいたい」と言ってくれる男性がいたそうです。

が!彼女から見てどうしても譲れない点がありました。Sさんはこの年代の日本女性としては割と高身長だったのですが、お相手の方は彼女よりも少し低い身長の方だったのです。「私、自分より身長が高い人じゃないとダメなのよね~」と言っていました。

 

聞いていて( ゚Д゚)ハァ?と思いましたよ。バツイチで!50代にもなった女性が!それでプロポーズしてくれる男性がいるなんて凄いチャンスじゃないですか。そのお相手の方の状況までは知りませんが、経済的不安だって解消するかもしれない(Sさんは猫と一緒に郊外のアパートに住んでいた)。生理的に嫌だとかそういう感じでもないのに、身長くらいで何言っているんだと思いました。
繰り返します。彼女はそれなりにモテるんです。でも20歳かそこらの娘さんじゃあないのです。一々そんな事言っていたら結婚なんか出来る訳無い。初老と言って良い年の、資産がある訳ではない、超絶美女と言う訳でも無い女性を、本人の人間性を気に入って「一緒に生きていきたい」と言ってくれる男性がどれだけいてくれるでしょうか?


「そんなになんでも条件が揃った都合の良い人なんていないですよ(現実を見てよ)」と言ったら「そう、友達にも言われた」と本人も言っていましたが、その後どうしたのか…


ある人に、このSさんの事を話したら、一蹴されました。「その人はそうやっていつまでも不安定な職にしかつけず、再婚も難しいでしょう」と。保護猫を飼ったりして愛情深いみたいですが?と言ったら「その人にとって猫は"自分"なんですよ。結婚したいのはパートナーが欲しいのではなく、"親"を求めているんです」と返されました。


…そう言えば、Sさんは家族との縁が薄い方でした。ご両親は彼女が小さい時に離婚して、それぞれ再婚して「今は生きているか死んでいるかも分からない」と言われていました。彼女は祖母に育てられたそうです。子供の頃から捨て猫を拾ってきては叱られていたとか。


そして、最初に若くして結婚した時のお相手は、ビックリするくらい年上の方だったそうです(背も高かったとか)。で…彼女は子供が欲しかったようですが、望みに反して授からなかったようです。その事に話が及ぶと、あのとてもパワフルな人の声がとても小さくなったのを覚えています。


神様とでも呼んでいい、運命とでも言っていい、私達の人生の色々を決定している"何か"に対して…私はこの時の事を思い出すと、唾を吐きかけてやりたいです。凄く凄く凄く理不尽なものを感じました。

 

何なの?そこまで辛い思いをさせようって何なんだよ?まだ足りないの???両親に捨てられる経験だけじゃあまだ足りないの?そこまでしなくてもいいだろ、何が偉くて人にそんな思いを味あわせるんだ…と。


Sさんよりもハードな人生を送っている人は、この地球上にごまんといるかもしれません。でもあんまりだと思いました。良く言われるように、「その人の魂の成長のために必要な試練なのです」という考え方なんて薬にしたくありません。


結局Sさんはどうなったのだろうな…?と今も思います。"親"ではなく、パートナーとして一緒に歩める人と生きておられることを願っています。


余談;Sさん曰く「私が若い頃は、旦那の実家へ盆暮れに行って滞在するのは(嫌だけど)当然の事だったよ。今の若い世代の女性が旦那の実家へ全く行かないとか考えられない」と言われていたのが印象的でした。私も、別の事でそのような印象を受けた経験があるので、頷けました。皆我慢しなくなったですよね。無駄な我慢なら、辞めてしまう方が良いですが。