青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『今夜すきやきだよ(コミック)』感想

今度のゴールデンウィークの旅行で、帰りの便の予約がまだだったと気づき、慌てて購入に走りました(買えました)…やれやれ。

 

さて、谷口 菜津子先生のコミック、『今夜すきやきだよ』を読んだので、手短に感想を上げます。

 

作者様は多摩美術大学出身

 

評価:★★★★★(5つ★満点))

 

フリーの内装デザイナーとして働くあいこは、結婚願望が強く、今の彼氏と結婚したいと思っている。でも家事はまったくできなくて、「家庭的な理想の奥さん像」を求める彼とすれ違い気味。絵本作家のともこは、家事は得意だけれど、世の中の結婚や恋愛があまりピンとこない。「理想の結婚相手が見つかるまでの間、とりあえず私と結婚しようよ」正反対のあいことともこ、アラサー女子の二人暮らし。普通の結婚ってなんだろう?

(新潮社のHP掲載のあらすじより引用)

 

 

良かったですが、かなりラディカルで攻めた内容でした。ちょっと『コンビニ人間』っぽさがあるかも。

作中の「一人だったら こんな美味しい肉まんは朝から食べれない」という言葉は、よくある話なら、だから”ひとり”よりも、パートナーや友人がいた方が良いのよー、という論調に行きがちだと思いますが、関係性にこだわらず、それを超えた緩やかな人と人とのつながりで見せてくれたのも○。色々な関係で色々な人がつながり、そしてシングルでいるあり方も許容する、そんな印象を受けました。


マンガ(エンタメ)にしては少々真面目すぎるとも思いましたが、日々生きる中で浮かび上がるささいなモヤモヤや疑問を「そういうもの」で片づけず(諦めず)一つ一つに向き合って自分の人生にとっての最適解を見つけていく登場人物達がいとおしいです。

 

『今夜すきやきだよ』谷口菜津子 著(新潮社)より引用(以降の画像も)

作者様のあとがきも印象的でした。そう、これを読んで「こんな時代もあったんだね」と振り返れる時が来たら良いなあ。

 

「第5話 参鶏湯いっぱいの幸せ」で、”悪い人じゃない”編集者から「ともこさんも 幸せになりましょう」と合コン的食事会に誘われるともこ(今のままで十分幸せな人)が「昔は恋をいつするかってワクワクしたけど もう今は恋してなくても毎日楽しいからいっかって なってきたんだ~」と言って結局食事会を断る話も良かったです。この編集者、『コンビニ人間』に出てきそうです(笑)

 

恋愛体質、結構願望アリアリのあいこが自分とは異なり"非恋愛体質"である、ともこを評して「あんた 何かが欠けてるわけじゃないから」「愛はいっぱい詰まってるよ」と理解を示すのも嬉しいところ。ともこの愛(家事の提供による快適さ)を存分に受けているから、分かっているのですよね。

 

向かって左側がともこ、右側があいこ

 

「足りないわけじゃない 他の大切なものがパンパンに詰まってる」という言葉、共感しまくりでした(笑)そう、恋愛体質じゃなくても、"愛"を知っている人は確かに存在するんですよ‼

 

また、家事が壊滅的に苦手なあいこが「第9話 ハートの底から感じるもの」で、仕事が多忙になったともこのために見様見真似で炊飯からおにぎりを作るまで奮闘するところも泣かせます。家事が大嫌いな人が大切な人のために頑張って作ったからこそ、この下手くそなミートボール入りおにぎりは尊いし、あったかいです。「料理は愛情」って、場合によっては作る側を追い詰めかねない価値観だけど、このエピソードでは良い意味でとらえたい感じ。

 

作中で一番美味しそうな料理に見えた

 

ところで、作者の谷口先生は多摩美術大学卒ということで、いかにも美大卒っぽい絵柄です。が、ネット上で他の方が評されているように、食べ物の描写があまり美味しそうでないようです…(苦笑)それが、このあいこの作ったおにぎりが私には一番美味しそうに見えました。

 

作中でのすきやきの描写(美味しそうじゃない…)

 

あいことともこ、彼女たちが本書の最後に選択する着地点が思いっきり自由すぎますが、ふんわり温かな気持ちになれます。おすすめマンガです!

 

余談

本書の番外編のシンタの話で、彼女に「今後こうなりたいとか目標は無いの?」と聞かれて「自然のきれいなところで動物たちと楽しく暮らせたら幸せだな~」「笛を自作して演奏したり…」「味噌も一から作るってのも…」と回答するシンタ(この後フラれる)の人物描写が、もう美大出身者あるあるな感じ(地に足がついていないところが)で「ぎゃー!!!(やめてくれ)」でしたwww

 

凄く美大卒な感じのシンタ

 

それでは、また!