正月の頃は自宅マンションからくっきり見えた富士山も、最近は霞んでいます。まだまだ寒くても、春が着実に近づいてきているのを感じます。
さて、今年7月に閉館することが決まった岩波ホールにて開催中の『ジョージア映画祭2022 コーカサスからの風』の「放浪の画家ニコ・ピロスマニ特集」上映日に鑑賞してきたのでその記録です。
先月1月30日に行ったのですが、盛況でした。ブログに書くのは「そのうち」と思っているうちに随分時間が経ってしまいました(;'∀')
【目次】
放浪の画家ニコ・ピロスマニ特集
私が観に行ったのは「Bプログラム 放浪の画家ニコ・ピロスマニ特集」の日で、ジョージアが誇る画家ニコ・ピロスマニの映画3作。他の上映プログラムも魅力的でしたが、時間がなく、これのみにしました。
- ピロスマニ(ギオルギ・シェンゲラヤ監督/1969/カラー/86分)
- ピロスマニ・ドキュメンタリー(ギオルギ・シェンゲラヤ監督/1990年/カラー/49分)
- ピロスマニのアラベスク(セルゲイ・パラジャーノフ監督/1985/カラー/23分)
このピロスマニ特集、岩波ホールでは今後2月19日(土)13:00、18:30に上映予定です。
ピロスマニについて知ったのは、いつのことだったでしょうか?おそらくピロスマニが大好きな、絵本画家のはらだたけひでさんの著書か何かがきっかけだったと思います。その後高山なおみさんの本『諸国空想料理店―Kuu Kuuのごちそう』に寄せられた、南椌椌(みなみくうくう)さんの文章でも、ピロスマニへの偏愛が語られていました。『堀内誠一の空とぶ絨緞』の中でも、ジョージアへ旅行された際に、この画家のことが言及されていた記憶が。
以下リンク先でピロスマニの生涯(英文)と、作品画像が見られます。
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この映画祭は、長年岩波ホールに勤務された後退職された、はらだたけひでさんの尽力によるものと伺っています(はらださんのtwitterで知った)。そして、私ははらださんの著書『放浪の聖画家ピロスマニ』で、シェンゲラヤ監督の映画『ピロスマニ』を知り、いつか観たいと思っていたので、このチャンスを逃すか!と行ってきました。
映画感想
ピロスマニ
まずは、シェンゲラヤ監督の映画『ピロスマニ』を鑑賞です。ピロスマニの生涯を元に創作された映画で、彼の絵をそのまま映像化したような世界でした。
絵にあるように、首をカットされた豚(ひっくり返っている)、テーブルに集い飲む男達、彼が恋したという女優が出てきます。そして(これは絵には描かれていないけど)ジョージア伝統ののポリフォニーや、ダンス。
静謐で、美しい謎に満ちた映画でした。
ただ、昔の私なら、この聖画家の清廉な生き方に感銘を受けるばかりだったでしょうけど、商売(や俗世で普通に稼ぐ生業一般)を芸術の下に見ている様子にもやもやしました。
友達と、食料品店始めるのですが、商売の最中に、干し草を運んでいる馬車を見ると、店をおっぽり出してすっ飛んで行くんです。「干し草をベッドにして寝たいんだ」というようなことを言ったり。
後年、街の酒場に絵を描いて生計を立てるのですが、お店の人達への態度とか…芸術家だからしょうがないのでしょうが、”伯爵”と言われるだけのプライドの高さ。
どちらかというと、私は二コラ(ピロスマニ)側の人間だし、芸術はとても大切なものだと思っています。
でも、この娑婆でお金を稼ぐことがどんなに大変か身に染みている身としては、商売を卑しいものと見なしているように見えて、素直に頷けないところもありました。商売なめんな~、やる気あるんかい二コラ~、したたかに、時にずる賢く立ち回って生き残ることの何が悪い、と言いたくてしょうがなかったです(立ち回り下手だけど)。
しかしながらこれは、永遠のテーマ(芸術と生業との相克)…映画自体は、とても良かったです。
ネットの他の方のレビューで拝見したのですが、この映画、常に曇っている天気を狙って撮影されたとのこと…言われてみれば!
それに、友達と経営していた食料品店のロケーションも、草原に他に何もないところにぽつんと配置されていますが、ドキュメンタリーで実際の店の写真を見ると、普通に街中に建っていました(そりゃそうでしょうね)。このように、かなり計算して作られている映画だという印象を受けました。
冒頭、ピロスマニが聖書の一節を読み上げるシーンから映画が始まり、ジョージアで復活祭が執り行われている中で終わる(画家もこの時死んだ?)のですが(私は異教徒なので良く分かりませんが)意味深ですね。実際ドキュメンタリーによるとピロスマニは復活祭の直前に逝去したとのことですが、明らかにキリストとこの画家とを関連させているように見えます。
ピロスマニ・ドキュメンタリー
お昼休憩を挟んで、シェンゲラヤ監督の映画『ピロスマニ・ドキュメンタリー』を鑑賞。こちらは生前の画家の生涯を辿り、死後の評価についても紹介したドキュメンタリーです。
こちらの映画も、監督のジョージア愛、ピロスマニへの愛情がひしひしと伝わってきて好感が持てました。先に観た、映画『ピロスマニ』と対照してみて、虚実の差を振り返る意味でも面白いものがありました。
ピロスマニのアラベスク
パラジャーノフ監督は、『アシク・ケリブ』のみ観たことがありますが、この映画でも、パラジャーノフはパラジャーノフしていました。この人、全然ブレない。
上記画像の女性(女優マルガリータ?)が短い登場ながらも鮮烈な美しさ。
最後、画家のパレットの上で魚(鱒?)がぴちぴちはねて終わるのも意味深。魚と言えば、キリスト教では「救い主キリスト」の象徴ですから。
私と岩波ホール
岩波ホールが閉館、と聞いて、大きな衝撃を受けましたが、実際は、2,3回観に行った程度なのですよね。でも、世界最大の古書タウン、神保町の文化の牙城として認識していたので、大変残念です。
ロビーに、これまでこの映画館で上映された映画のチラシが壁面に展示されていました。
画像に映った『幸せのありか』は、身体障碍を抱えているにも関わらず、知性が高い青年(実在する)の半生を綴った、観ていて辛くなるけど非常に優れた作品でした。
『家族の灯り』は…ちょうど当時の仕事をクビになって、状況的にも精神的にも最悪な時に観ました。映画の内容も、救いがなく…なけなしのお金を払ってこんな暗い映画を観る私って?トホホ…な思い出があります。
今資格試験の勉強もあり、閉館までにまた行けるか分かりませんが、寂しくなるな…という心境です。
『ジョージア映画祭2022 コーカサスからの風』自体は、~2月25日(金)まで開催予定です。
それでは、また!