青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

TVアニメ 『平家物語』感想

連休もお天気はぐずつくようで、しょんぼりです。

 

さて、山田尚子監督のテレビアニメ『平家物語』(全11回)を見終わったので、感想です。いや、良かったです。

 

素晴らしい出来でした

 

heike-anime.asmik-ace.co.jp

 

【目次】

 

古代からの繋がりが残る時代

かつては源平合戦、今は「治承・寿永の乱」と言われる平安時代末期の平安時代末期の治承4年(1180年)から元暦2年(1185年)にかけての6年間にわたる国内各地の内乱。

 

この頃の時代が昔から好きでした。源三位頼政の鵺退治のような怪異が当たり前だった古代の名残がある時代、皇族はいまだ神孫であったとき。その皇族に対して、坂東を中心とする地方の武者たちが自分達の権利を主張して立ち上がった時代。家にあった、『学習まんが 少年少女日本の歴史』(小学館)(あおむら 純さん作画のシリーズです)の影響が大きかったと思います。

 

www.shogakukan.co.jp

 

この本で描かれる、源義経が私の初恋でした(その後手塚治先生の『火の鳥 乱世編』のダークな義経像にショックを受けることになります)。

 

 

2012年のNHK大河ドラマ、『平 清盛』にもめちゃ嵌まりました。

 


www.youtube.com

 

超高速平家物語だった

テレビアニメ『平家物語』の話に戻ります。

 

全11回と聞いて、「(こんなにクオリティ高いのに)短すぎる~」と嘆きましたが、結果的には中だるみせず、この短さに凝縮してまとめて良かったと思います。

 

主人公びわの視点で平家の没落・滅亡が語られる

(画像はTVアニメ 『平家物語』公式サイトより引用 以下も同様)

 

平家物語』の良かった点

作画のクオリティ(時々構図が神がかっている時がある)も、美術(草花や海等の自然描写)の美しさ、動画・演出の巧みさ(まさに”アニメーション”)、どれも素晴らしかったです。

 

草花の描写が繊細で美しい

 

内容的に、海の描写が多い

 

自然描写と動画の見事さよ

 

 

また、限られた作品の時間にも関わらず、「祇王」「小督」のエピソードや、平盛子の婚家との事情、平資盛の殿下乗合事件、強訴の様や、以仁王の乱、御子姫君が後白河法皇後宮に入る経緯の話など、随分細かいエピソードまで拾っているなと感心しました。

 

祇王」のようなエピソードも拾っている

 

視聴していると、登場人物が相手の「手をとって反対の手で包み込む」シーンが目につきました。繰り返し描かれるのですが、コロナ禍で接触を忌避する現在なので、特に印象に残りました。

 

OPの羊文学「光るとき」も以前書いたように、満点です。歌詞も音楽も。

 

平家物語』の良くなかった点

既に多くの方が指摘されていますが、平家の蛮行にちょっと否定的なことを言っただけで殺される展開は、いくらなんでもやりすぎです。

父を殺されたびわは、平重盛の家に引き取られる

 

そして、そんな平家方に父を殺されたびわは、平重盛の家に引き取られますが、建礼門院徳子の産屋にまでびわが侵入しているのには違和感がありました。

同じようなことで、天皇法皇と臣下が同じ立ち位置で話をしていることも、ああいうことあるんでしょうか?いくら平家全盛の時であっても、武家風情が廊下で天皇と立ち話、とかありえない気がします。

私はこういったことに疎いですが、後白河法皇(一応、治天の君)と重盛が同じ縁側で一緒に座って会話というシチュエーションも「なんだかなぁ…」と感じていました。そういえば、後白河法皇と重盛(とその息子たち)は、男色関係にあったという説があるので、そういうことを念頭におきながら、「こいつら…ムフフ」と思いながら視聴していました(笑)。

 

それから、このアニメでの平重盛の人物像。いや、私はこのアニメでは重盛推しなのですが、後世の補正が入っていて、人格者過ぎると思います(『平家物語』での描写がそうなので仕方ありませんが)。

 

このアニメでは重盛推しです

 

実際は結構えげつないことしている人だったのに、父・清盛に対するアンチテーゼ的な平家一門の良心担当となっていて、「忠ならんと欲すれば孝ならず。孝ならんと欲すれな忠ならず…」という明らかに儒教的価値観での言葉を発したとされていますが、これは後世の補正かと思います。

 

 

後、佐殿(源 頼朝)の描かれ方。のんびりおっとりしすぎです。そんな人のいい為人ではない筈。政子との力関係も、別にああで良いのですが、終盤は、佐殿が既に清水冠者義高を殺して、娘の大姫はメンヘラになっている筈。あの夫婦があのような様子でいるとは思えないのですが。

 

頼朝がおっとりしすぎ

 

そして!どうしても気になったのは安徳天皇の髪型。アニメ赤子の時以外は、いわゆる角髪(もしくは髻(みずら))に結っていますが、『平家物語』では、この髪型にするのは、壇之浦で入水する最後の最後なんです。

 

左側が安徳天皇。髻(みずら)に結っている

 

平家物語巻第十一 先帝身投』より引用すると、

「…主上今年は八歳にならせ給へども、御年のほどよりはるかにねびさせ給ひて、御かたちうつくしく辺りも照り輝くばかりなり。御髪黒うゆらゆらとして、御背中過ぎさせ給へり…」

現代語訳だと、太字部分は

背中あたりまで伸びた黒髪が美しく揺れておられる

…となっています。この「ゆらゆら」は、『源氏物語 若紫』で後の紫の上が登場するシーンで「髪は扇を広げたるやうにゆらゆらとして」に通じる言葉です。安徳帝はこの時点まで、髪を結っていないのです‼

 

それがいよいよ入水する際に、

「…山鳩やまばと色の御ぎょ衣いに、びんづら結ゆはせ給ひて、御涙におぼれ…」

となりますが、この「びんづら」がみずら(髻)です。本当に最後の最後にこの髪型になるのです。

 

アニメでの平時子安徳帝

 

このことから、安徳天皇は身代わりが入水したとか、ひそかに生き延びたとか説があります。私は高田崇史先生の本で、また別の説を読んで「なるほど」と思ったのですが、それはここでは語りません。

 

平 維盛の人物像

これはアニメの罪ではないですが…

重盛の息子の維盛は、史実でもその美貌で「光源氏の再来」と言われたそうですが、光源氏、やつは非実在男子であって、今まで一度も来たことはないですよ(笑)

 

平 維盛 一貫して戦嫌いとして描かれる

 

アニメ『平家物語』での維盛は、武門の生まれにも関わらず、それになじめず「こわがり」であると描かれます。でも、過去のNHK大河ドラマにあったような私の大嫌いなフレーズ「戦は嫌でございます~」に感じられるような不快感はありませんでした。

 

平家の陣は赤い幕

 

戦で戦う、当時の武家としては当然の生き方にどうしてもなじめず、でもそれを押し殺して一度は頑張るけど、脱落して、最後は出家して補陀落渡海(入水)の道を選ぶ維盛。心折れて結局何も為せず、逃げ続けて、敗北者として死ぬ。こういう人、きっといたんだろうなあと思いますし、現代の視聴者が感情移入しやすい人物像かと思います。

 

びわと維盛(右側)、最後の邂逅

 

また、びわもそんな維盛の「逃亡」を(一応は止めようとしますが)、そう強く反対しないのですよね。その弱さを受け止め、見届けて後の世に語り伝えることを選びます。ここは印象的でした。

 

義経の人物像

このアニメは『平家物語』なので、源氏方はそんなに描かれませんが、義経は短いながらも冷酷で戦術の天才として登場していました。民間人、非戦闘員の命なんてなんとも思っていない感じ。

 

自分の義経像から違和感ない

 

良く「義経は卑怯だった」説で出される、船戦の時に(非戦闘員であった)船を漕ぐ水夫(かこ)を弓で射るよう指示したシーンも作中でありました。当時、水夫を攻撃の的にすることはありえないことでした。ただ、このように義経が指示したという信頼できる記録は実はないとのことですが…

この作品の義経なら、『平家物語・延慶本』三草山合戦のくだりで書かれている「例の大だい松はいかに」発言はしそうですね。合戦時夜間暗いので、松明(たいまつ)代わりに周辺の民家に放火するんです。「いつものあれ、やっとく?」というノリ。他にも、「邪魔だから」とか、大軍がいるように見せかけるために民家を燃やしたことがあったようです。

これは、義経が特別極悪非道だった訳ではなく、当時の武家たちの常識だったようです。酷い話ですけどね。

 

大原御幸について

アニメ最終回『諸行無常』で見て、初めて平家物語における後白河法皇の「大原御幸」に違和感を持ちました。建礼門院側からすると、後白河法皇は「不倶戴天の仇」「今更おめおめと何しに来た」と牙を剥いても良い存在かと思います。

 

大原御幸のシーン

 

でも徳子は、結構穏やかに応対しているんですよね。この辺の心理を小説にしたら面白そうですが、永井路子さんの短編に丁度あるようです。いつか読みたい。

 

アニメでは法皇は、「わしは三種の神器さえ戻れば、平家を滅亡させるつもりはなかった」と言っていましたが、嘘つけ!です。あんなに一緒に(今様の)セッションしていた資盛の嘆願もスルーして、本当に碌でもない人物でした(ほぼ史実どおり?)

 

まとまりもなく語りましたが、大変完成度の高いアニメ作品でした。見て良かった。

 

後世のびわ

 

それでは、また!