青海のブログ

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『インスマスの影 ラヴクラフト傑作集』(全2巻)田辺 剛 著 感想

H・P・ラヴクラフトの傑作短編小説で、クトゥルフ神話の系譜につらなる「インスマスの影」(原題:The Shadow Over Innsmouth)を田辺 剛先生が完全漫画化した『インスマスの影 ラヴクラフト傑作集』(全2巻)をまとめて読みました。

 

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表紙のテイストは俺の好みじゃない…


原作小説は既読なので、筋は知っていましたが…充実した読書の時間を過ごせました。幸せ。


と、いうわけで以下感想です。

 

 

 


※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★★(5つ★満点))


【目次】

 

概要

アメリカ合衆国のホラー作家、H・P・ラヴクラフトが1936年に発表した短編小説にして代表作の「インスマスの影」をラヴクラフト作品の漫画化で世界的にも評価されている田辺 剛先生が完全漫画化した作品です。

 

あらすじ

物語は全て終わった後の主人公の回想で語られます。

1927年7月、成人となった記念に母方のルーツを訪ねてニューイングランドを貧乏旅行していた主人公。旅の途中のニューベリーポートにてインスマス経由でアーカムへ行くバスがあると知った彼は、周りの人が止めるのも聞かずに、そのバスを利用する事に。

かつては賑わっていたが、数十年前に疫病で没落したと噂される港町インスマスに降り立ちますが…

 

感想

注意:あらためて書いておきますが、以下はラヴクラフトの原作小説『インスマ(ウ)スの影』のネタバレにもなります。それを御了解いただいた方のみ、読んでください。

 

最後は結局『Let it go』

主人公が、若さゆえの冒険心・好奇心でいわくつきの町へ行ってしまい、結局死ぬ思いで逃げだしますが、真の恐怖はここからだった…という話。やっとの思いで逃れた!と思っていたところで逃れようのない恐怖が待っていた絶望。自殺しようとするも、その段階も突き抜けた主人公の変容。


今読んだら、このパターンの話はそう珍しくないでしょうが、発表当時は衝撃だったのではないかと思います。

 

原作で読んだとき、ラストシーンのBGMは『Let it go』(ディズニー映画『アナと雪の女王』)だな、これは。と思いました。今読んでも、レリゴ~♪と脳内で音楽が鳴ります(笑)

 


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読んでいて、非常に満ち足りた気持ちです。癒されました。うふふ(怖)

 

作画が素晴らしい…が

上記のように、原作を読んでいて筋は分かっていたのですが、田辺先生の素晴らしい漫画化で、よりこの作品世界を楽しめました。

最後、主人公が自らの立ち位置と行く末を高らかに宣言する見開きの"絵"は、荘厳な美すら感じられました。"綺麗"とは違う、むしろキモイ絵なのですが(田辺先生、グッジョブ!!)。

今までの田辺先生による、H・P・ラヴクラフトの漫画化では、『神殿』や『ダゴン』等も独特の美があって、魅了されていました。

ただ、今回"深きものども"(Deep Ones)のデザインがクリーチャーとして完成され過ぎていて、ある意味カッコいいとも言える造形なのが不満です。カッコよすぎるのですよ。原作読んだ時のイメージでは、カエルと魚が人間とブレンドされた奇怪さがあったのに。あれでは、主人公が垣間見て失神する説得力がありません。

 

インスマスの住人たちの「インスマス面(づら)」はキモかったのですが、うーん、難しいなあ。完全に魚類顔になっちゃったら、「魚」とか「怪獣」でしかないので、嫌悪感が感じられないです。人間とそれ以外のモノとの中間の、絶妙な(?)ブレンド具合が気持ち悪さを喚起する元かと思いました。

 

もうちょっと、カエルの要素も欲しかったです!

 

インスマスの影』をミュージカル風にした動画。


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そう、このようなキモさが田辺版『インスマスの影』に欲しかったです。

作品の設定の悍ましさ

この『インスマスの影』の悍ましさは、オーベッド・マーシュ船長ら、インスマスの人々が"深きものども"相手に異類婚を行って子供を作った、という点が大きいと思いますがその辺りを考えても、本書での"深きものども"では、あまり気持ち悪さを感じられないのですよ。全身固そうだしセックスする時、怪我しそうで大変そう…と思うくらい。

 

オーベッド・マーシュが割とハンサムな造形になっているのが、"起こったこと"の悍ましさを強調はしていると思いますが。

 

崖の上のポニョ』との関係

こちらで既に考察されているように、スタジオジブリの『崖の上のポニョ』はクトゥルフ神話だ、という話に私も全面賛成です。(初め読んだとき爆笑しました)

 

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最恐母娘

 

ポニョは"魚の子"だし、魔法を使う時の顔が半人半魚で、まさに「インスマス面(づら)」!! ちゃんと魚と人間との境界ゆえのキモさが描かれています。


そして、父親のフジモトは、プトゥ・トヤ=ル・イー と異類婚して子供を作ったオーベッド・マーシュ船長そのものだし、母親のグランマンマーレは海の神。しかも、デボン紀(約4億1600万年前から約3億5920万年前まで)の海を知っているというので、たかだか8万歳のプトゥ・トヤ=ル・イー では例えるには役不足かもしれません。むしろ、上のリンク先で言われているように"深きものども"の長である「父なるダゴン、母なるハイドラ」クラスの神の1柱かもしれませんね(笑)

 

どうする宗介…とんでもない方々と約束しちゃったよ…

 

ところで、サイズの全く異なるフジモト・グランマンマーレの夫婦ですが、映画公開当時、「どうやって子供作ったんだろうか…?"体外受精"か!!」と思っていました(後から、グランマンマーレは体の大きさを調整できると知りましたが。)。
ポニョの、あの妹たちの数を見ても、胎生じゃないですよね?絶対卵生。そしてこの夫婦の造形は諸星大二郎先生へのオマージュでしょうか、やっぱり。

 

 

それでは!