台風接近、心配ですね。
さて、先日言及した、2021年6月に成立・交付された改正育児・介護休業法について私が思ったことの続きの話です。
この法改正について知って、男性の育休取得について色々と(表面的に)調べていた時、ふと思い出して読み返したエッセイがあります。
作家の吉本ばななさんの『単純に、バカみたいに』というエッセイです。
(ムック本『ゆっくりAERA』(2004年12月)に初出)
※本記事での引用は、皆『人生の旅をゆく』(吉本ばなな 著 NHK出版)収録の『単純に、バカみたいに』となります。
今回このエッセイを思い出したのは、文中で特に(当時の)日本の若い女性達について言及されているからです。
…済みません、今回は人様のエッセイの引用ばっかりになります。
私たちの肉体は大昔からそんなに変わっていないし、一日は二十四時間。そんなにたくさんのことができるわけがない。それなのにこの時代の日本が人に要求することは、ほとんど超人になれというようなことばかりだ。
そして、(2004年当時の)日本の若い女性たちに"のしかかっている重み"について述べられています。
私は、現代の要求にのまれてしまい、今はもう現実に参加できなくなったり、とことん体を壊してしまったり、人相が悪くなってきりきりしてしまっていて、もう話もできなくなってしまったような知人がいっぱいいる。
何ものかよ、元の彼女たちを返してくれ!と心から思う。
(中略)
みんなかけがいのない才能、替えられない笑顔、優しい心を持った普通のお嬢さんたちだったのに、どうしてあんなことになってしまったんだ、と言いたい。
そうして、ばななさんはそんな彼女たちを"炭鉱のカナリア"になぞらえます。
親の時代とは"価値観や男の人の在り方"が全く異なってしまっていること、でもとにかく自分の知っている範囲で子供たちの安定を望む親の世代が要求してくること…そういったことも彼女たちを追い詰めていると指摘されています。
マスコミでは、一部を誇張した成功者の話ばっかりが、いいふうに毎日流されて、人はみなあおられてしまう。みんな罪悪感を持っている。生きていることそのものに、自分の平凡さにだ。みんな自分にうんざりしていて、超人的にがんばらなくては自分を好きでいられないような心境になっているように見える。
子供を産むことも経済的に困難だ、支援があるわけでなく、周りの環境は育児に温かいものでは無い。子供がもたらす幸せよりも苦痛が上回れば誰も子供を産まないだろうと警鐘をならしています。
…もうその問題は顕在化して、それをなんとかしようとあわあわやっている訳ですが。
以下の部分も共感しまくりでした!
部屋もきれいで、自分も年齢を超えてきれいで、情報には敏感で、お金も稼いで、過去の価値観からは離れ、でも親とも円満に、男にもかしずき、子も産んで……そんなことを要求されているのが、今の若い女性だ。
どう考えても無理だろうと思う。
でも真面目でがんばりやな人ほど、その要求に答えようとして壊れるところまで行ってしまう… 人生は一度しかなく、自分は一人だけしかいないのに。
ばななさんは、私たちは食べること、お金、楽をするためでも子孫を残すためでも長生きするためでもなく、自分の情熱を燃やして向いていることをやりつくすために生まれてきたと訴えます。愛を抱いて良き思い出をつくって悔いなく死ぬためにいるのだと。
もう、ひとりも負けないでほしい。時代に押しつぶされて、かけがえのない笑顔を失わないでほしい。
みんな、どうしてしまったんだ、そんなにすごくならなくてもいいじゃないか、と思う。
熱い、ばなな節。やりきれない怒りと哀しみと、強い祈りが込められた文章です。
発表当時、自分は○○歳。人生について、身の振り方について色々考えざるを得ない年頃でした。(私の場合障害者だったので、「一般の若い女性」とはちょっと事情が違うのですが)
あの時から約17年後。
再読していて私は泣きはしませんでしたが、じわっとくるものがありました。
あの頃から若い女性達、特に社会の波に揉まれている20歳代~30歳代を取り巻く状況はそんなに変わったのだろうか。変わらなかったのかとつい考え込んでしまいました。
全ての人が持っているはずだ。「あなたがいてくれてよかった」と他の人に思われるようなところを。
(中略)
一見評価されにくくても、個人の輝くところ、必ずそこには何かがある。
全ては自分の中からはじまり、幼いときから生涯を通じて続いてきたのだ。そのヒントは自分の中にしかない。
(中略)
本能の声を聴いて、耳を澄ませていけば、必ず自分と自分がぴったりくるポイントがあると思う。そしてそれが一致したとき、個人はとても大きな力で、日常を、周囲を照らすだろう。
(良くも悪くも)このエッセイのメッセージは今でも全然古くなっていないと感じています。
今の若い女性達にも、それ以外の方々にも、このばななさんのメッセージが届けば良いなと思いました。
それでは、また!