青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『車輪の下』ヘルマン・ヘッセ 著 感想

ゴールデンウイークも終わりです。掃除や、へっぽこガーデニングやオンライン飲み会もでき、グータラ出来た良い連休でした。

さて、ヘルマン・ヘッセ の小説、『車輪の下』の感想です。読書会の課題本だったので読みました。

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図書館で借りました

 

車輪の下(新潮文庫)

車輪の下(新潮文庫)

 

※注:盛大にネタバレしています
評価:★★★★☆(5つ★満点))

 

【目次】

 

概要

ドイツが産んだノーベル賞作家、ヘルマン・ヘッセの代表的自伝小説。マウルブロンの神学校での寄宿舎生活は、著者の実人生を元に描かれています。

 

あらすじ

ドイツ、シュワルツワルトの小さな町に生まれた"神童"、ハンス・ギーベンラートは、幼少時から周囲の人々からの期待を背負い、子供らしい遊びからも遠ざけられてガリ勉生活にあけくれていました。

結果、国家のエリート養成機関であるマウルブロンの神学校に2位の成績で合格します。が、詩人の心を持つ奔放な級友、ヘルマン・ハイルナーとの出会いがきっかけで、今までの勉強一辺倒の人生に疑問を持つようようになってしまいます。

勉強へのモチベーションが下がり、親友ハイルナーの退学と、校内で孤立が進み、成績がガタ落ちのハンス。精神を病み、とうとう彼も退学になります。

失意の中帰郷して、エンマとの儚い恋(失恋)を経験後、周回遅れで機械工の徒弟として再出発するハンス。働き初めの飲み会で、飲み過ぎてしまい酔いつぶれた挙句に溺死します(事故か自殺か不明)。

 

感想

子供にこんなもの読ませるな

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勉強し過ぎは毒だ、と訴える課題図書(矛盾)

あの…こんな小説を何故ヘッセが書いたのかさっぱり分かりません(;´∀`)
死亡エンドは知っていましたが(有名な小説ですから)、それでも読んでガックシ、しおしおのぱあですよ。一貫して全くカタルシス無し。

そう、この小説、ドイツより日本の方がずっと読まれているそうです。しかも、読書感想文とかの課題図書になっていたりするそうですが。決めた人は何を考えているんだか。受験戦争にさらされる思春期の子供にこんなガリ勉ライフを徹底して批判している小説を読ませてどうするんですか。これ、大学合格以降にこそ読ませるべきですよ。

本書は全編にわたって、大人達に勉学を強制される生き方への皮肉と批判に満ちています。でもそこから外れてどうなるのか。どの道生きることは闘いだし、楽ではありません。ヘッセは奇跡的に作家として成功しましたが、滅多にない例ですよ。

受験生の時期は、ハンスのように勉強に明け暮れるべき(学問が向いていなくても何か将来の仕事につながる勉強は必要)だし、そして合格して初めてハイルナー的生き方を知れば良い、そう思います。本当にハイルナーのように生きなくても、あくせく勉強やら仕事やらしながら、心の中にこっそりハイルナーを飼えば良いのです。

 

作者ひどくね?

ヘッセが自らを二人の登場人物、ハンスとヘルマン・ハイルナーに投影したのだろうとは読んでいて感じました。ハイルナーは生き延びて作家となった自分なのは分かりますが、もう一人の自己―ハンス―をあんなに転落させて、殺してしまう意図がやっぱり分かりません。

後半の、以下の展開…

エリートコースからドロップアウト(退学)

帰郷してぶらぶらしている時にエンマとちょっとエロイことになる
(少年時代からの完全な訣別)

エンマとの別離(フラれた)

ブルーカラーとして再出発

アルハラで死亡

……この展開、酷くないですか?(;´д`)トホホ…

 

小説において、作者は受験戦争の過酷さを批判します。そしてハンスがドロップアウトしてしまってから、自殺を何度も考えたと描写しながら、死なせません。その後、恋の経験で子供時代に別れを告げさせ、彼が今まで見下していたブルーカラーの仕事に身を投じることで、大人への成長を促したのかと思っていたら…

ハンスはそのような人達の生活も"悪くないじゃないか"と確かに見直していたんですよ。でも、そこから人生を切り開いていくことを、作者は許さなかった。そこが分かりません。

 

能力が発揮できない辛さ

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学問の楽しさは確かにある

素質があっても、その能力を開花させることができるとは限らないのだなあと痛感しました。お勉強ができるだけじゃダメなんですよね。世間知や、ある種のたくましさもないと。その悲劇も描かれていると思います。

 

自然描写は美しかった

こんなにくさしていて星4つなのは、作中に折々描かれる、自然描写―季節の推移や動植物を描く文章―が美しかったからです。特に、彼が遠ざけられ、訣別せざるを得なかった自然のままの子供時代に直結する描写がとても美しい。原文は分かりませんが、高橋健二さんの訳文が良いからでしょうね。

例えば、神学校に入学後の春の描写。


春の初めだった。美しい丸みを帯びた丘に、浅い明るい波のように、もえる緑が流れた。木々は、輪郭の鋭い褐色の網目のような冬姿をぬぎ捨て、若葉の戯れや野山の色と溶けあい、生き生きとした緑のはてしない波と化した。

(『車輪の下ヘルマン・ヘッセ著 高橋 健二訳(新潮文庫)より引用)

 

釣の描写も生き生きしていて、ヘッセ自身も(少なくとも幼少期は)釣に明け暮れたと思わされます。

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バッタが餌だそうです


…でも、話が進んで、ハンスの心がボキボキ折れていくのに、相変わらず自然描写が(怖いくらい)美しく綴られるのが、辛くなって「もうやめたげて(´;ω;`)」という気分になります。

 

ちょっとBL描写? 

男子ばかりの寄宿舎で、男同士のキスシーンなんてあり、「BL!?」と思ってしまいました(笑) こちらが勝手に反応しているだけですが…

 

ヘルマン・ヘッセについて

私は、ヘッセの著作は教科書に掲載されていた『少年の日の思い出』と、『デミアン』、『メルヒェン』、『地獄は克服できる』が既読です。『少年の日の思い出』もキツい話でしたが、本作もなかなかいい線行っています。

車輪の下』の神学校のモデルとなるマウルブロン修道院は、写真で見て、建築の美しさが印象に残っています。

↓公式サイト

 

www.kloster-maulbronn.de

 

それでは!連休明けの方が多いでしょうが、頑張りましょう。