青海のブログ

本や映画、展覧会の記録と感想等。時々、発達障害について。

『セクシー田中さん』芦原 妃名子 著 1巻~3巻 感想

今年の新年初読みは芦原妃名子さんの漫画、『セクシー田中さん』を1巻~3巻一気に読みました。この作者様の作品を読むのは初めてです。

いや、面白かったです。人はいくつになっても、誰に何を言われても、自分で自分を肯定して背筋を伸ばして良いのだ、何度でも!と言われている気がして、元気が出ました。

 

 

 

 

作品が時代と「同じ方向を向いた」

 

フェミニズムジェンダーロール等、現代の私達(ジェンダー問わず)にかけられた「呪い」やそれへの問題提起等、『逃げ恥』の後を継ぐ、時代を体現する作品になる気がします。そうなって欲しい。絶対にドラマになると思っていますが…どうだろう。

 

本作品は『姉系Petit Comic 2017年9月号(2017年8月19日発売)』で連載開始。掲載誌は主にアラサー女性をターゲットにしているそうです。1巻の作者コメントには「40overは恋愛市場にて女か否か、「愛され女子」は果たして愛されているのか、等々…痛々しくもユカイに描いていけたらなーと。」とあります。
奇しくも同年2017年10月頃から、アメリカの映画プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクシャル・ハラスメントに対する告発がきっかけとなって起こった「#MeToo運動がSNS上で巻き起こります。この奇妙な一致は、作品が時代と「同じ方向を向いた」感が強いというか、面白く感じました。


また本作の開始は、ドナルド・トランプが大統領に当選した、アメリカ合衆国大統領選挙(2016年11月実施)の後であり、1巻には、ヒラリー・クリントンの敗北宣言が引用されています(少女漫画で…びっくりしました)

 

"枠外へ"ちょっと脱線する

 

主人公は、絶賛婚活中の23歳のゆるふわ派遣OL朱里。可愛い愛され女子と言った感じです。でも、外見とは裏腹に結構自分や社会をシビアに見て分析しています。


「幸せになりたい訳じゃない サイアク 不幸にならないためのリスクヘッジがしたいだけ」「男性が私をちやほやしてくれるのは 私が若くて適度にバカそうで ちょっとがんばればすぐ手に入りそうな ちょうどいい手頃な存在だからでしょう」


……なんてね。可愛くてコミュ力高く、ちやほやされているようで、実際は「誰かに本気で惚れられた事が無い」と結構自己評価が低いのです。
それは、「友達以上、恋人未満」の進吾の存在も大きいでしょう。好きだったのに、一度関係を持ったのに、それっきり都合のよい「友達」として一線を引かれてしまっている。この進吾のキャラクターが絶妙なんですよ。ずるい男なんですが、100%やな奴では無い。困ったときに朱里の力になってくれる所もある。

 

そんな彼女が会社で自分と別世界の人だと思っていた経理部のAIと呼ばれる地味なアラフォー田中さん。仕事は抜群に出来るのですが、コミュ障で社内の女子からの評価は酷いもの。それが、朱里がある晩入った店で別人のようにベリーダンサーとして(!)踊る田中さんに遭遇!これがきっかけで今まで閉塞感を感じつつ当然と思っていた"枠"の外へ踏み出すようになります。

誤解されないよう書きますが、この話は男女平等だ、フェミニズムだ、女性の権利だを声高に主張する話ではないんです。登場人物達もそんな振舞いを見せる訳では無い。
そういったメッセージを伝えよう、という事では無く、作者がたまたま時代の空気を感じ取った中で描いたものが結果的にそういう要素を孕んだ話になったのだと思います。

前述のヒラリー・クリントンのメッセージを受けて、「"天井を打ち破る"なんて大層な野心はもったこともなく "枠外へ" 多分 私はほんのちょっと脱線してみたくなったんだ」という朱里に共感する人は多いと思います。

また、この漫画はしっかりエンターテインメントとして面白いのが偉い。田中さんのハムスター「真壁くん」には爆笑。

 

印象的だったやりとり

 

昭和脳男・笙野に「何故ベリーダンスなんてふしだらな踊りをしているんですか!?」と(失礼な)質問をされて、田中さんの返答。ベリーダンスと言っても、色々な側面があるんだと説明した後、


「正解がないので迷うんです 自分が「こう在りたい」という正解を 自分で選び取るしかない (中略) 他者の偏見をはねのけて 強く在りたいか 全て内包して 柔く 共存したいのか まだ模索している最中です」 

 

誰に何を言われても、何度でも背筋を伸ばすという田中さんですが、必ずしも誰が何といおうとはねのけてやる!と強気ではないのですよね。ダンスは表現、表現とは伝える事。ただはねのけていてばかりだと、無人の山中で踊っているようなもの。それはベストかな?と思っていたので、今後の田中さんがどうなるかに興味津々です。


笙野はまた、田中さんが片思いしているチャラいおっさん(既婚者)に関して無神経な事を言い、とうとう田中さんを怒らせてしまいます。その後、笙野と友人の小西のやりとりですが…

笙野「不倫はダメだろ」
小西「なんで?」
笙野「「なんで」って…常識的に…!!」
小西「なんでダメなのか自分の言葉で説明できなきゃ 相手に届くわけねーじゃん」

そして、小西は無神経な笙野の振りかざす"常識"より女の扱いが上手い魅力的なおっさん(既婚者)の方が余程説得力あると説きます。ここ…好きかも!!
いや、まともな人が10人いたら、10人とも「やめとけ」という恋ですよ、私だってこの場にいたら言う。でも、誰が田中さんを笑えるのかとおもいます。

でも、笙野もそう悪い人間では無いんですよ、大半の(女性)読者を敵に回しているであろう彼ですが、初めにガーーーッと落として、徐々に上げていくのは、良くあるパターン。彼がどう変わっていくかも楽しみです。

 

次巻が待ち遠しい


ああ、早く4巻出ないかな~*1ワクワク 
激おすすめ漫画です!

*1:o(´∀`)o